『石原慎太郎×内閣官房参与・佐々木勝 緊急提言・このままでは日本は守れない~医療不在の自衛隊~』

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主張

 災害現場で自衛隊が救出救助活動する姿を見てさすが自衛隊といつも感服していた。しかし、こと医療に限れば民間のDMATの活躍が著しいものの、医官の活躍が伝わってこなかった為、自衛隊の災害時の医官の役割はどうなっているのであろうかと自衛隊医官との関りを持ち始めた。だが、内閣官房参与を拝命し自衛隊医療の内部を見た現実は驚くべき自衛隊医療の脆弱さであった。諸外国の軍隊医療と比較するどころか民間病院の医師以下といえる絶対的な臨床経験不足を知るに至ったのである。災害時はおろか、万一の戦時においては戦力低下に繋がる危機的状態である。内閣官房参与として任された使命を果たすべく内部から改革改善を防衛省等に訴え努力してきたが、防衛省幹部は常に「改革には長い時間がかかり、先生が思うように早く改善することは無理」という返答で変わらぬ状態である。このような焦燥の中、フィリピンでの訓練中に自衛隊海外派遣で初となる死亡事故がついに起きた。防衛省に事故について外傷起点はもとより病院前治療・病院治療・病院後治療をしっかりレビューすべきと進言しても「フィリピン現地の医療機関で適切な医療受けたので先生の出番はありません」という返答であった。亡くなったのは日本を守る為に派遣された日本人の自衛官である。自衛隊医療は自国の隊員の為どれだけ機能したのか?医療的な裏付けもないまま「今後とも訓練の安全管理に万全を期す」という水陸起動団長の言葉を信じ、現状のまま隊員の命、ひいては国民の命を預けてよいものか──。自然災害が増加する昨今、また日本を取巻く軍事的緊張が高まり軍備拡大の兆しがみられる今、災害医療・自衛隊医療への見地からこの事実を訴えられるのは日本において私しかいないとの危機感に駆られ、己の立場を鑑み熟考の末の緊急提言であるとご理解頂ければ幸いである。

論述

 第一線救護衛生科隊員と戦傷医療の基本概念

 戦闘現場の中で砲火にさらされる状況(care under fire:CUF)、すなわち、本当に実弾が飛び交い被弾する状況下での医療活動を行うために、防衛省は2016年9月から「第一線救護衛生科隊員」という新制度を導入し、2017年6月から育成している。(http://www.med.kobe-u.ac.jp/comed/pdf/handout/h290703_eme_forum_handout_sasaki.pdf)。第一線救護衛生科隊員の資格認定や質の向上のために防衛省CMC(コンバットメディカルコントロール)が設置されている。戦場での医療は軍人としての立場と医師としての立場があり常に軍医はその二重忠誠、すなわち、戦傷医療の本質は『戦傷では時として救命行為よりも作戦行動が優先する場合がある』、の狭間で揺れている。戦傷医療の中でも銃弾が飛び交うCUFで活動する第一線衛生科隊員は医師の育成には多くの時間と金がかかるという合理的な理由から医師ではない。彼らは医師の代わりに砲火の下で自分の安全を危険にさらし行動するため、戦況次第で本来医学的に行うべき処置や治療を行えず、戦闘後には訴訟や叱責の対象になりかねない存在である。

戦傷医療の本質を知らない医官、パクリ疑いをかけられた防衛医科大学校教員

 その彼らを守る役目が防衛省CMC(コンバットメディカルコントロール)にはあるが、そのCMCに参加している空自首席衛生官が戦傷医療の大原則を知らないことを2017年11月に当時の衛生監並びに事務次官に指摘しても問題意識が低く、このような現状では『第一線救護衛生科隊員』の十分なる活動は望み得ない。さらに、週刊朝日オンライン「防衛医大教授がテキスト制作で元自衛官の著書を“パクリ” 抗議でこっそり修正」(https://dot.asahi.com/wa/2018080600061.html?page=)の記事では筆頭編集者である防衛医大救急医教授も含めたそうそうたる医官達が編集した学術書がイラスト主体の一般書から無断引用の疑いをかけられている。教える立場の人間がこの程度では本当に質が保てるかも疑わざるを得ない。

防衛省へ医療的戦略の人材の打診

 2017年6月には、「戦傷には熱傷が多数発生し治療として死体からの同種皮膚移植が欠かせないが、皮膚移植に関しては現状では臓器移植法の枠外、熱傷学会基準による自主的ガイドライン、日本スキンバンクの脆弱な財政基盤などの理由から今現在の民間医療でも大量重症熱傷患者発生時には対応できない可能性が高い」、「化学生物放射線テロ傷病者に関しても汚染や診療能力・技術、風評被害などにより引受医療機関が十分とは言えない」、「医療職までが対象になる危険なテロ現場に防護教育を受けていない民間医療職の活動は不可能であり、かつ危険なテロ現場に一般医療職を派遣する責任は重大なものがある」、など防衛省には軍事的な戦略だけではなく医療的側面から見た戦略も必要であると当時の事務次官に上申したが、「防衛医科大学校、自衛隊病院はいまだ力不足ではあるが、外部の人間は必要としておらず、現に政策参与も従来から外部の人間ではない」と一蹴された。

防衛省・防衛医科大学校のガバナンス低下

 2017年防衛医科大学校病院東病棟の施設改修に関する私の報告書の中で「度重なる設計見直しなどの混乱や経費の増額を招いた原因と再発防止策」に関しては大学校長以下幹部のガバナンス能力低下を報告した。これだけではなく、先ほどの戦傷医療に本質を知らない首席衛生監、パクリを疑われる救急医学教授など、防衛省の組織全体としてのガバナンス低下が疑われる。正論2018年8月号(https://www.fujisan.co.jp/product/1482/b/1653171/)「もし尖閣で負傷者が出ても… 自衛隊医療の恐るべき貧弱」の記事自体は取るに足らないものであるが、記事源がCMC(コンバットメディカルコントロール)の外部識者である杏林大学救急医学教授の発言であり、外部委員としての本来業務であるCMC委員会では一切発言しないにもかかわらず雑誌正論の論調に乗せられ、あたかも自衛隊の医療が著しく遅れている旨の不用意な発言をしたことを衛生監に指摘しても問題にしないことも一種のガバナンス低下と考えられる。

このような状況下、フィリピンの訓練で死傷者発生

 『フィリピンの訓練で交通事故により自衛隊員1名死亡、1名重症』という記事https://www.asahi.com/articles/ASLB73VCCLB7UTIL00D.html?iref=comtop_list_nat_n01新聞などの報道によると10月2日フィリピン人男性が運転する車で一緒に移動していた自衛隊員2名が大型車両と正面衝突し、1名が10月6日夜(7日午前との報道もあった)死亡、他1名が負傷したがその日のうちに退院したという。これに対して青木伸一水陸起動団長は『痛恨の極み、前原2曹のご冥福を心からお祈り申し上げる。今後とも訓練の安全管理に万全を期す』とコメントを出した。本当に『安全管理』に万全を期すなら、この事故を医学的にもしっかりレビューすべきであると考え、「今後このような事故が行らないように分析検討し将来に役立てることが望まれる」と防衛省に要望を出したが、この事故は訓練中ではなく民間移送車による移送中の事故であり「フィリピンで適切な医療を受けたので先生の出番はない」との返事あり、詳細を聞くことはできなかった。起動団長の言う『安全管理に万全を尽くす』には医療の視点が入っているのであろうか。医学的にしっかりレビューするなら、医官や第一線救護衛生科隊員の関わりは勿論、救急搬送体制や応急処置などの病院前医療、根本治療や医療水準などの病院内治療を統合的に分析評価すべきである。また、医療の正当性は必ずしも合理性ではなく感情によって導かれるものであるから、フィリピンと日本の一般人の医療水準を鑑みた場合にはフィリピンでの「適切な医療」ではなく、「フィリピンでは通常受けられないような高度医療を受けた結果死亡した」というコメントでなければ、多くの日本人は納得しないと思われる。2018年1月に提出した南スーダン、ジプチの視察後の報告書、また、2017年10月に提出した当時の事務次官への上申書でも、海外負傷者発生時の際には固定翼機による本邦への後送を進言した。航空自衛隊にはC130に軌道衛星ユニットを組み込んだ、いわゆる『空飛ぶICU』(https://www.youtube.com/watch?v=QiMxvsIZeoE)が存在し、国内の重症患者の航空搬送を行っている。米軍はたとえこのような事故でも軍人の事故には積極的に関与しそれが軍人の支えになっているが、今回の事案は事故から死亡まで4日間の間に『空飛ぶICU』の派遣は検討されたのであろうか。陸上自衛隊の事故であったため航空自衛隊は関与しなかったという各幕のセクショナリズムのため検討されなかったのではという懸念すら感じてしまう。一人の尊い命がなくなった時には、病院前、病院内治療が本当に正しく行われたか、日本への後送の可否などの検証もなしに、ただ適切な医療で亡くなったでは済まされない。

医官・防衛医科大学校の存在意義はあるのか?

 従来から災害に関して自衛隊の救出救助活動は幅広く行われ国民の支持を得ているが、災害時の医官の活動実態は見えてこない。今回の事故も12月4日の事務次官との面談では現地の民間医師が担当したらしく医官の同行の有無が明らかではなく、私の推測では同行していないと思われる。派遣した自衛隊員の生命を他人に任せている現状を鑑みると、起動団長の『安全管理に万全を尽くす』の言葉とは裏腹に、12月1日から8日まで航空自衛隊とインド空軍の共同訓練が報道されているが、参加する自衛隊員への万全な医療体制が組み込まれているとは思えない。医師需給分科会では厚労省が2024年にも需給が均衡しその後は「医師過剰」になると推計している時代に(2016年4月1日 医療・介護行政全般 メディ・ウオッチ)、医官が医官として本来業務を果たしていないなら、医官、防衛医科大学校の存在意義が問われる。

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