死亡率の安易な比較は混乱を招く

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 コロナウィルス感染症に対する各国の死亡率に関する最近の報道では、イタリアで感染者が最も高い(感染が確認された人が24,747人、亡くなった人が1,809人で死亡率7.3%)と報道された。この数字より高い、低いと議論されているが、単純な比較をしてはいけない。

 イタリアでは爆発的な感染者の増加で、既に医療資源は相対的あるいは絶対的に不足した状況、すなわち、既に『他数傷病者発生事案(mass casualty incident:MCI)』もしくは『災害』に陥っている。MCI・災害対応の重要な第一歩はトリアージであることは周知であり、『死亡率が高い』のはイタリアではトリアージが忠実に実施されている結果とも考えられる。

 MCI及び災害時に野外で行われるトリアージには、一次性トリアージ、二次性トリアージがある。前者は重症度・優先性を振り分けることであり、START法が我国では良く知られている。二次性トリアージは我国では二回目のトリアージとの誤解が生じてるが、本来は救命可能な者を選択することであり、有名な方法としてTriage Sort法とSAVE法(secondary assessment of victim endpoint)がある。Triage Sort法とSAVE法の違いは前者は外傷治療を目的に考案され、かつ、傷病者に適切な医療を提供できることを前提としているため、圧倒的な医療資源の不足はない状況下で使用される。SAVE法は生存の可能性を評価し、その治療に消費される資源と期待できる効果の関連を検討したもので、例えば65歳以上の治療は優先しない。

 一方、MCI及び災害に病院では、一次性、二次性、三次性トリアージが行われる。一次性は重症度や優先性で単純に患者を選別し、二次性はCTなど種々の検査で診断治療の必要性を判断する。三次性は治療の必要性を知った上で、『最大多数に最良の治療を』という基本概念を念頭に、不足している医療資源をどの傷病者に使用するかを決定する。相対的あるいは絶対的に医療資源が不足している状況下の三次性トリアージは、不足した医療資源を有効活用し、救命者を最大にすることが目的となる。すなわち、この状況では死亡率の高低が問題ではなく、救命できる者を最大限に増加させることが最優先であり、医療資源は明らかに救命可能な者たちに使用され、その適応では、残念ながら、救命困難な者や救命のために著しい医療資源を必要とする者、高齢者、特に、併発症を持つ高齢者、は除外されてしまうのが現実である。

 これらの観点から、イタリアの状況を鑑みると、既にMCIあるいは災害の状態にあり、イタリアの医療者は三次性トリアージの上で、苦渋の決断をした結果として、死亡率が高い可能性は否定できず、我国との単純比較をするべきではない。むしろ、我国でもこのままのコロナウィルス感染患者の拡大が続けば、三次性トリアージに軸足を置かざるを得なくなる。

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