「新型コロナウィルス感染症対策としての自衛隊派遣について」考える

 岸防衛大臣が12月8日夕方に旭川市に自衛隊看護官の派遣命令を下すという報道の中で、岸防衛大臣は8日午前中の会見では「要請をそのまま受け入れるのはかなり困難を伴うのではないか。」と述べ、今後の派遣も慎重に吟味していく考えをにじませた、という一文が載っており、派遣は苦渋の選択であった可能性がある。その背景を考えてみた。

 自衛隊の災害派遣について原則的に考えてみる。まず、新型コロナウィルス感染症は「災害」なのであろうか?「災害」とはWHOの定義によれば、「影響を受けた地域において、地域自身の持つ医療資源のみでは対応し切れないような、広範囲の人的、物的、環境的損失を引き起こす社会的機能の深刻な混乱である。」とある。今回の新型コロナウィルス感染症の蔓延は確かに緊急事態ではあるが、あくまで広範な人的損失であり、その点では多数傷病者発生事案である。また、本当にその地域の医療資源が著しく損なわれ社会的機能が深刻な混乱に陥ったとは必ずしも思えない。

 さらに、自衛隊の災害派遣の3原則は、緊急性、公共性、非代替性、である。差し迫った必要性がある、 公共の秩序を維持するため人命又は財産を 社会的に保護しなければならない必要性がある、という2点においては十分原則を満たしていると言える。しかし、 部隊が派遣される以外に他の適切な手段がない、ということを満たしているとは必ずしも言い難い。医療行政の将来展望の甘さが招いた事態ともいえるからである。

 厚労省の地域医療構想による、①感染症病棟が2000年の2,396床から2018年の1,882床までに減少、②高度急性期・急性期の機能を担うことが多い公立病院の統廃合計画、③効率一辺倒で余裕のない地域医療構想のスタンス、等の医療改革進行中に起こった今回の新型コロナウィルス感染症である。「感染症病床、必要な集中治療室等の機能」を減少してきた結果として、今回の稚拙かつ貧弱な対応を生んだと言っても言い過ぎではない。

 現在の診療報酬では病院は90~95%の病床利用率を維持しないと黒字にならない構造であるが故に、今回のコロナ危機では患者の7割を公立・公的病院が受け入れた。すなわち、コロナ患者を受け入れやすい高機能病院では公立病院の割合が高いだけではなく、公立病院の病床利用率が民間よりも低く、結果的に患者を受け入れる余裕があったためとの推測もある。(二木 立:コロナ危機後の医療・社会保障改革)。すなわち、本邦の病床数の約6~7割を占める民間病院は新型コロナウィルス対応に十分向かうだけの体力がない。このことは当初から厚労省の十分承知していたはずである。

 また、自衛隊の感染対策の目的は、疾病としての感染対策ではなく、兵器としての微生物テロに対する国土防衛である。しかも、衛生部隊は基本的に部隊運用であり、衛生部隊のみの独立した運用は行われないはずである。自衛隊の運用上、看護師のみが派遣されるということは異例の事態である。本来の感染対策の目的が異なっているだけではなく、自衛隊の運用自体の在り方も問題と言わざるを得ない。

 自衛隊の存在意義、原則を鑑みた場合に、今回の件も含め政治の道具として政治家や行政のパフォーマンスに安易に利用され過ぎていることを憂いでいる。岸防衛大臣もこのことを憂いた結果の8日午前中の発言と信じたい。自衛隊幹部自体の上昇志向を見透かされて、挙句、 自衛隊の本来の在り方についての 意識が著しく低下している。表面的な「愛される自衛隊」の姿だけではなく、本来のあるべき姿、国ためにどうあるべきか?自衛隊自身が声を発する時期である。

『日本学術会議』をめぐる議論

様々な意見があるが、元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一 氏の意見、『 学術会議が政府の機関で、会員は国家公務員である以上、政府の任命に裁量があるのは当然だ。それが不満であれば、学術会議を民営化すればいい。学術会議が民営化を望まなかったのであれば任命に従うのは当然だ。その場合、政府による任命は「人事」であるので、その理由は述べないのが普通だ。そもそも人事に説明責任がないのはどんな組織でも同じだ。』が妥当と思われる。

 学術会議が政府の機関である以上、人事権は政府にある。会社組織に例えれば、『なんで私が部長に選出されないの?』と不満を周囲に漏らし、かつ、何故選ばれないのか理由を示せ!と言っているようなものである。もちろん、会社は人事選考の理由を明かすはずはないし、社会通念上余程のことがないとそのことには誰も文句を言えないし、文句も言わない。すなわち、単純なん人事が行われただけのことである。

 この人事問題に関して、 声高に『学問の自由が脅かされる』と叫んでいる方々がいる。しかし、日本学術会議の会員が推薦通りに選出されないと 本当に 学問の自由が失われるのであろうか?答えは『否』である。学問の自由は日本学術会議がなくとも侵されることはない。では、多数の学会や研究会が存在する中で、日本学術会議とは、何のための組織であるのだろうか?

 今回の騒動は、この人事問題を通して、『日本学術会議』の存在意義も含めた在り方を問い正す良い契機と考えるべきであろうと思われる。

「死んでも4時間後に生き返る」前提の訓練では自衛隊は国を守れない

二見龍氏の『「死んでも4時間後に生き返る」自衛隊が現実離れをした訓練を続ける根本原因』の寄稿を読ませて頂いた。これが現実・真実であれば、自衛隊には医療が不在・不要である。正に、この思想が一昨年のフィリピンでの訓練における負傷兵の死亡につながったと思われる。銃後の守りとしての医療の存在無くして、自衛隊員は国を守ることは不可能である。フィリピンの事故での教訓が未だ生かされていない現状では『自衛隊は戦わないことを前提』とした集団と言わざるを得ず、ただの災害救援救助組織である。もっともこれは国防の観点からも重要な任務の一つではあるが、本来の業務である『戦闘してでも国を守る』任務は困難、いや不可能、と思われる。

医療は『安全・安心の象徴』であるが故に、それが崩れるような発言を敢えて慎しみ、いくらかでも安心を与えるような発言をすることも新型コロナウィルス感染症対策には重要と思われる

 最近、医療界の高位な方々から、政府の新型コロナウィルス感染症対策に対して厳しい意見が報道されている。確かに、新型コロナウィルス最前線において日夜戦っている医療職の切なる思いからの発言であること重々理解はしている。

 しかし、一方で、医療は安全・安心の象徴であり、ことさらの不安を煽ってしまう危険性も含んでいることを忘れて欲しくはない。5月6日の私のブログの中でも『 『命が大事か、経済が大事か』という二者択一を迫る政治家が派手なパフォーマンスを繰り返しているが、実際には白黒とはっきり決着をつけられるものではない。むしろ、両者を協調させ対応していくことが望まれており、我国の専門家委員会もそうあるべきである。 』と、敢えて苦言を呈した。

 医療は社会とともに進化する科学であり、社会の必要とするものとの調和も必要である。そう遠くない昔は結核が主たる病であったものが、今は癌が主たる病となり、社会が必要とした、あるいは、望む医療を時代時代において提供し乗り越えてきたはずである。いずれもが、その時代にはその病の危機を叫ぶ一方、社会との調和も図ってきた結果今の繁栄がある。新型コロナウィルス対策が医学的な側面のみから成功したとしても、それは必ずしも社会的な価値観につながらず社会自体が崩壊してしまう可能性もある。

 今回の新型コロナウィルス感染症対応は未知なるウィルスへの対応(従前のコロナウィルスの治験が必ずしも当てはまらない)であり、客観性を持つ判断ではなく主観性を持つ決断が必要とされる。このような対策・対応をしたらこのような効果が生じる『期待効用論』上からの最適な選択がそもそも不可能な事案である。組織論から言えば、 bounded rationality(限定合理性;合理的であろうとするがその合理性には限界がある)の中で責任のある政治家が決断せざるを得ない状況であり、その決断(正しいか正しくないかはその時点では評価が不能)を促すために正確な情報を迅速に伝えることが周囲の役目である。

 医療という一側面だけから見た総理の対策は医療最前線に立つ医療職には稚拙と思われるであろうが、それだけを持って、総理の決断がお粗末とは言い難い。医療職の声に耳を貸さないのであればその罪は重いが、声を聴いた上での決断だとしたら、その決断に従うことも重要である。総理は日本丸の舵取りをする船長であり、我々は嫌でもその船に乗っているのだから。

防衛大臣から初めて出た現実論

ミサイル破片被害は容認 河野防衛相』というタイトルで、河野太郎防衛大臣の記者会見のコメントが報道されていた。『地上配備型迎撃ミサイルパトリオット(PAC3)の迎撃後に破片が落下した場合、被害を容認する考えを示した。』との発言の意味するところは、多くの国民を守るためには、多少の犠牲はやむを得ないということであることは周知であろう。

 自衛隊が軍隊であれば軍は国を守るためのものであり、その目的遂行のために戦略戦術を常日頃から練っている組織であり、当たり前の発想である。ミサイル迎撃は直接被弾した場合と迎撃した場合の国全体の被害の大きさや影響を天秤にかけ決定されるものであるから当然の帰結である。さらに、ある程度の犠牲は容認する一方で、当然のことながら被害は最小であるべきと考え、銃後の守りとしての医療体制が整えられている。

 ではなぜ、今回このような防衛大臣の記者会見が大きな見出しになるのであろうか?我国では自衛隊は軍隊として容認されていないことに尽きると思われる。軍人は『殺傷』という法的にも倫理的にも許されざる行為を行わざるを得ず、その彼らのために憲法以外に軍法が存在し、その制限下に戦闘行為が行われている。軍法は活動を制限する一方、軍人を守っている。法体系的にも自衛隊の軍隊としての法律はなく、その意味では自衛隊は『軍』としての活動は不可であり、いわゆる『軍隊』ではない。

 法体系だけではなく、現在の自衛隊を鑑みるに、綺麗ごとではない防衛意識はあるのか?多数のために少数の犠牲はやむを得ない等の軍族としての国を守る強い信念はあるのか?災害派遣という親しみやすい部分だけを見せて、本来の目的は防衛のためなら殺傷行為も厭わない恐ろしい存在でもあることを国民に知らせているか?等、憲法改正の前に『軍隊』であるという自らの意識・国民の意識が低すぎる。さらに、戦うことを前提としてこなかったために、あまりにも戦傷医療体制が貧弱である。

 今回の河野太郎防衛大臣の発言は、自衛隊が軍としての存在である一面を初めて国民に向かって発したことに大きな意義がある。これを機に自衛隊の本来の設立意義を改めて考える一歩になればと思う。自衛隊はいつまでも『戦争ごっこ』をしている時代ではない。

マスコミで色々な検査について情報が乱れ飛んでいるが、彼らは本当に新型コロナウィルスの検査について理解しているのであろうか?知ったかぶりの報道が目立ち、市民の不安をことさらに大きくしているだけ!

 それPCR法だ!抗体検査だ!、PCRが陰性の患者がまた感染したなど、報道各社は様々なコメンテイターを用い、一件情報提供しているように見えているが、その知識はあまりにも稚拙かつ」凡庸なるが故、かえって視聴者に不安を与えているだけと思われる。

 そこで、新型コロナウィルス検査について、今現在の知識を知って貰いたいと考え、The National Academy Press : Rapid expert consultation on SARS-CoV-2 laboratory testing for the COVID-19 pandemic (April 8, 2020)がまとめているので要点を紹介する。※SARS-CoV-2(ウィルス名であり、SARSを惹き起こすコロナウィルスSARS-CoVの姉妹株としてSARS-CoV-2と名付けた)、COVID-19(新型コロナウィルス感染症の正式名称)

 信頼できる、標準化された臨床的確証は疾病率を決定するための黄金の標準である。しかしながら、特に新たな感染症に関しては、感染を持たない人から感染を持つ人を正確に首尾一貫して分離できる高い感度・特異度を持つ検査は手に入らない。通常は被ばくされたリスクに基づく感染の可能性や臨床所見や症状を考慮する臨床的判断はCOVID-19のような感染症や人を理解するには重要である。疾患の媒体を直接検知する検査(例:ウィルスのRNAのためのPCR)と疾病に対する宿主反応を検知する(例:特異な抗体を検知する血清学的検査)の2つの一般的な検査型がある。

 

Ⅰ.ウィルスのRNAを検知する

 現在使用されている大半のCOVID-19検査は疾病媒体を直接検知し、ウィルスRNAを測定する。ウィルスのRNAは現在の感染を示し、感染力や他人に移すリスクを示唆する。しかし、個人のウィルスRNAの存在は、特に感染後期には、伝搬性の可能性のある完全なウィルスよりむしろウィルスの残渣を表している可能性もある。 SARS-CoV-2の現在の臨床検査は、逆転写酵素ポリメラーゼ鎖反応(reverse-transcriptase polymerase chain reaction : RT-PCR)、あるいは、咽頭、喉頭、喀痰、唾液のサンプルのループ媒介等温増幅(loop-mediated isothermal amplification : LAMP)を用いて、ウィルスRNAを検知することに頼っている。

①RT-PCRはCOVID-19の診断に広く採用されているが、後ろ向き研究では疾病の早期の確認においては胸部のCTやその他の臨床的・検査的所見よりも感度が低い可能性がある。疾病の経過のどんな時期でもRT-PCR陽性に基づいて診断されたCOVID-19陽性の51例の研究において、後ろ向き研究では臨床症状時に51例中35例がRT-PCR陽性であったが、51例中50例に胸部CTで異常所見を認めた。この研究にしろ他の研究にしろ最初の検査で偽陰性になった原因を明らかにできなかったが、病気のステージ、解剖学的部位におけるウィルス量の少なさ、患者によってはサンプル採取法が原因と考えられる。

②2004年にSARS-CoV(SARSを惹き起こすコロナウィルス)のために発展したLAMP法(咽頭、喉頭、喀痰、唾液のサンプル)は従来法よりより早く、より簡単に、より安い、ということが分かっている。また、LAMP法はRT-PCRに比べてSARS-CoVへの感度・特異度が高いことを示し、この利点が得られるか現在、コホート研究が行われている。

③45分で可能なCepheid’s SARS-CoV2カートリッジ、15分以内のAbbott’s ID NOW COVID-19 isothermal amplificationは迅速ウィルスRNA検知検査である。両者とも局所の能力を構築することに支援できるが、質やサプライチェーンが国民の必要性に応じられないが、迅速検査は外科手術を受けるような患者には有用である。

 臨床現場使用はまだであるが、SARS-CoV-2のためのCRISPR-Cas12 or Cas13 based diagnostic testは最近の技術を超えた利点がある可能性がある。

Ⅱ.宿主の免疫反応を検知する

 この病原体に対する特異な抗体を測定する、いわゆるSARS-CoV-2血清学検査が2つ目の検査である。有用な情報が得られるが、血清学情報の有用性と意味はウイルスRNA診断結果の意味と有用性とは異なる。血清学検査は個人が以前に病原体に被ばくされたか否かを測ることであり、病気の経過の遅れた時期の診断確定においてRT-PCRの補助診断に使われる。IgM抗体は典型的には症状発現の数日から1週間以内に出現し数週間から1か月あるいは2か月持続する。IgGより早く出現するが特異性は低い。IgGは典型的には感染後2週間には血流に出現し、数か月、症例によっては数年持続する。各種の抗SARS-CoV-2抗体は症状発現後平均5から14日でCOVID-19の患者に見られる。感染数週間の間は、同じ個体に抗SARS-CoC-2抗体とウィルスRNAが見られる。一般的に血清検査の結果は、特にIgM測定、分子学的検査よりも特異度が低い。

 季節性コロナウィルス(non-SARS-CoV-2)感染症の患者からのサンプルは陰性コントロールとして特に重要である。人口に基づいた疫学研究において、感染病原体に対する抗体の存在は過去の有用な指標であり、また、疾病拡大を防ぐ種々の国民への介在の有効性を評価できる。抗体は病原体に対する宿主の免疫を示すが、SRRS-CoV-2の症例では抗体の存在が疾病を防ぐか否か知られていない。

 四季の季節コロナウィルスへの人間の免疫反応、以前のコロナウィルスの出現を熟考することはここではとても重要である。ほとんどの人間は普通のウィルス(hCoV-OC43、hCov-229E、hCov-HKU1、HCoV-Nl63)に抗体を持っているが、人間は未だに毎冬これらのウィルス感染症に罹患する。何故起こるのか?、これらのウィルスに対して血液の抗体は何を認識するのか?何故自然発生の抗体は疾病を防がないのか?どのように毎年のコロナウィルスは突然変異するのか?何故夏になくて冬に見られるのか?に関するデータは限られている。

 MERS-CoVに被ばくした個人における抗体反応の分析から、一般的に商用ELISAキットは良い特異度とであるが、研究所で使用されるプラーク減少中和試験(a plaque reduction/neuralization titer assay)に比べ感度が低い。全ての検査室に認められるような高い感度と特異度を持つ標準の設立が真にSARS-CoV-2に被ばくし免疫の可能性を決定し有効な結果を得るために必要である。SARS-CoV-2に対するT細胞反応の測定は抗体分析の補助に、MERS-CoVのような流行と同じように、有用である。

Ⅲ.感染力の決定

 現在のRNAに対する分子テストは生存ウィルスがいるかいないかの決定はできない。例えば、ウィルスRNAが糞便サンプルの中に高値でも、感染性ウィルスが典型的にこのサンプルから分離されない。ウィルスRNA中間体のあるタイプはその検体の中で活発な複製を示すかもしれない。これらのRNAは人間細胞の中のウィルス生命サイクルの間産生されるが、成熟したウィルス粒子には取り込まれない。このようにRNAの存在は、以前集合した生存ウィルスよりむしろ、活動的な複製を示す。ウィルスの蛋白に基づく検査は、蛋白はウィルスRNAよりも早く劣化するため、遺伝子検査よりも感染力を検知するのは優れている可能性がある。

まとめ

 ウィルスRNAを検知するものとウィルスに対する人間の抗体を検知するものの2つの検査が一般的である。前者は一般的に活動的かつ進行形の感染を示し、特に感染経過の初期に他への感染性を疑わせる。感染後数週間ウィルスRNAの検知が持続することは感染を起し得るウィルスがいることと同意義ではない。

 抗体検査は過去に被ばくし免疫が確立された証拠であるが、抗体と感染予防の関係はこのウィルスに関しては確立されていない。

『ソーシャルディスタンス』から見た我国の現状 Social Distancing(社会的距離を取ること)について本当に分かっているのか?

新型コロナウィルス感染症の予防策として、ソーシャルディスタンスという言葉がにわかに注目されているが、疫学的な意味ならソーシャルディスタンスではなく、『ソーシャルディスタンシング』という英訳が正しいと言っている人もいるように、その意味をよく知らないまま使用されていると思われる。ソーシャルディスタンスとは?、本当に感染症蔓延の予防に対して有効なのか?という素直な疑問に答えてくれる論文、Rapid expert consultations on the COVID-19 pandemic : March 14, 2020-April, 2020:The National Academies Press、を紹介しながら、我国の現状を鑑みた。

呼吸系ウィルスは空気中の粒子(会話、くしゃみ、咳)、粒子の空中浮遊(直径5μ以下、くしゃみ、咳)、表面媒介(表面接触、目・鼻・口の粘膜接触)の3経路にて人-人感染が起こる。多くの研究は過去のインフルエンザの経験に基づいて、ソーシャルディスタンシングはより長い期間の疾病数や死亡、疾病の発生の拡大を減少させると一般に言われてる。ソーシャルディスタンシングは学校や職場の閉鎖からマスクを着用する大規模イベントの中止のような幅広い地域社会への干渉であるが、予後にどれほど貢献するか?は必ずしも明確ではない。しかし、一般的には、歴史的あるいは計算上、現在有効な抗ウィルス治療やワクチン戦略がない時は有効である。しかし、これらの研究は全社会的あるいは経済的な費用と全く協調されておらず、現在のパンデミックにおけるソーシャルディスタンシングの費用、費用対効果について十分示されていない。

※『命が大事か、経済が大事か』という二者択一を迫る政治家が派手なパフォーマンスを繰り返しているが、実際には白黒とはっきり決着をつけられるものではない。むしろ、両者を協調させ対応していくことが望まれており、我国の専門家委員会もそうあるべきである。また、『新しい生活様式』という子供じみた提案をするのではなく、ソーシャルディスタンシングの貢献度は明確ではないが、有効な治療薬やワクチンがないから必要であることをきちんと国民に説明すべきであった。国民が政府の提案した自粛行動をしないから蔓延が防げないんだ!といった如何にも上から目線で提案された『新しい生活様式』は学問的裏付けがないだけではなく、国民の心情的にも反発を招くと思われる。

情報提供として中国武漢の新型コロナウィルス感染症のパンデミックを3相期に分けて紹介する。前提としてウィルスの基本生殖数は3.86と見積もった

①2019年12月8日から2020年1月23日

 新たな発症者が指数関数的に増加。

②2020年1月23日から2020年2月2日

 ソーシャルディスタンシング実施。疑い症例の自宅隔離、防疫線設立、公共輸送機関の停止、入口路や公共スペースの閉鎖、強制的マスク着用、個人衛生の強制、体温や自己モニタリング。この期間にウィルスの生殖数は1.26まで低下したが、まだ1.0以上あるためウィルスが拡散する可能性があった。

③2020年2月2日以降

 防疫線設置、公共輸送機関の停止、入口路や公共スペースの閉鎖は継続し、症例のために企画された病院への中央隔離、移動キャビン病院、学校、汚染あるいは可能性のある患者ためのホテル、許可のない住民全員の全体的な厳重な自宅待機の政策、広範囲の体温と症状モニタリング、全体のスクリーニングと報告、を追加した。これらの追加にて生殖数は0.32まで低下した。2月18日まで感染症の94.5%を予防すると見積もられた。

※毎日報道されるのは、相変わらず感染者数・退院数と死亡者数のみである。毎日のPCR 検査の対象者が何名で、その内、何名が陽性なのか?、疑い症例の何%が陽性なのか?など一切国民に報告されていない。例えば、100名の感染が確認されたとして、1,000名の検査の結果なのか、10,000名の検査の結果なのかで、その評価は全く異なってしまう。PCR検査自体についても感度(病気の人が陽性になる割合)、特異度(病気の人が陰性になる割合)が公表されていないので、除外診断・確定診断がどの程度正しいのか不明である。さらに、感染経路のはっきりしない数のみが公表され、全体的な疫学的なデータが全く公表されないため、外出自粛を含めた対応が有効か否か確かめようがない。

また、インペリアル・カレッジ・ロンドンからの報告では、症例の自宅隔離、汚染患者の隔離、学校・職場の閉鎖と含む幅広いソーシャルディスタンシングは新たな症例の発生を減らせなかったし、発症の立ち上がりを緩徐化させることもできなかった。しかし、この疾病の再発生を避けるため、有効なワクチンが発展・開発されるまで持続し、18か月以上の可能性もある。著者は伝染能力と干渉の有効性の見積もりは明確ではないと強調したが、3か月の干渉で脆弱な人口(老人あるいは慢性疾患)には他の方法も含めたソーシャルディスタンシングが死亡率を半分にし、ピークが2/3になったと解析した。同様に米国で老人のみのソーシャルディスタンシングでは病院のsurge capacity(収容能力)を凌駕し、100万人の死亡者を出すかもしれない。

※疫学的な調査結果が示されていないので、年齢、喫煙の有無、既往症などリスク因子が示されず、『新たな生活様式』という漠然としたものだけで、本来重要であるはずの生活習慣の変容について言及されていない。

逸話風に、2002年のSARSのアウトブレークの経験から検出の能力に磨きをかけたシンガポールでは、学校・職場の閉鎖をすることなく、症例の隔離、接触経路追跡、汚染者の隔離でSARS-CoV-2の伝搬を抑制した。この結果は普及した診断検査の有効性を持つ者のみ可能である。

※PCR検査自体の制度、検査数、など公表されないのは、国民にかえって検査能力が不十分ではないか?という疑心暗鬼を生むばかりではなく、検査が十分対応できれば、これほどの蔓延は起きなかったのでは?という不信感が大きくなる。

日本政府及び専門委員会のあまりに学問的ではない『新しい行動様式』にあきれるのを通り越して虚しい感じになる。専門家は専門家の意見を言わず政治家に忖度し、政治家は危機感を持たずに言葉尻で国民をまやかしている。安倍総理の一昨日の『緊急事態宣言の延期』の会見は魂がないただの原稿の棒読みであり、安倍総理の目は第一次安倍内閣を放棄した時を彷彿させ、心ここにあらずであった。一刻も早い、政治の指導性の回復を願うばかりである。

新型コロナウィルス感染症は『指定感染症』として正しく運用されているのか?

 厚労省は令和2年1月28日『新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の制定 』の通知を出した。

 3月21日発行の医事新報の『【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:指定感染症であること による混乱の可能性」浅香正博 』内に『PCR検査を希望者全員 に行うことは感染者の数を著しく増やすことにつながると考えられる。この場合、無症状や軽度の症状の人もまとめて新型コロナウイルス感染症と診断されるので、指定感染症である以上、原則的には入院隔離措置が執られることになる。そうすると、感染症指定医療機関ではない一般の医療施設でも入院させざるを得ない状況になり、逆に院内感染を拡大させる可能性が増してくる。いつの日か、本感染症を指定感染症から解除する時がやってくると思われるが、そうなってくれると通常のインフルエンザと同様に軽症の場合は自宅待機を勧めることが可能になり、医療における混乱が生じる可能性は減少する。』という一文がある。指定感染症に指定されたことによる一般医療施設の負担や院内感染の拡大を指摘しており、現在の医療崩壊を暗に示している。

 患者や感染が疑われる人には行政が入院措置できるよう定められ、重症者は指定病院、中等症・軽症者は協力病院に収容されたが、3月から感染者が急増し、対策として都は4月7日から、ホテルを棟ごと借りて、陰性確認を待つだけの患者を病院から移し、同17日からは、入院治療するほどではないと判断された新規の軽症者や無症状者を、自宅から直接ホテルに収容し始めた。このことについて杉並区の田中区長が苦言を呈している。

  「指定感染症は隔離治療が必要なので、感染症法に基づいて入院勧告がなされます。勧告に従わなければ措置入院です。にもかかわらず、政府の文書一つで自宅療養が原則とされてしまいました。ホテルは、病床がいっぱいになった代わりに入ってもらうのだから、入院と同様に扱うべきです。ところが、病床が空いていれば措置入院、代わりのホテルなら本人の希望制というのでは整合性が乏しいと思います」というように、指定感染症としての位置付けが乱れてしまっている。

 指定感染症なら指定感染症の原則を守るべきであり、緊急事態だから何でも有り、という発想は非常に危険な危機管理である。

 

総理はアビガン使用について実態を知っているのか?

 安倍総理は4月28日衆議院予算委員会で『アビガンについて「企業治験もスタートしている。観察、臨床研究が進んでいる中で、中間評価的なことができないか今議論してもらっている」と説明。また、特例承認されなくても、患者自身が希望し、病院の倫理委員会で認められれば使用できることを強調した。』と発言したというが実態を把握しているのであろうか?

 現時点で、アビガンは患者が希望して、かつ、入院先の病院のアビガンの適応外使用についての病院の倫理委員の承認を得たとしても、使用不可である。何故なら、アビガンは国の認定を受けたアビガンの治験施設でなければ入手はできず、すべての病院で使用可能な訳ではない。すなわち、入院した病院が治験施設か否かでアビガン投与が可能かどうかが決まってしまい、患者の希望や入院先の倫理員会の承諾だけではアビガン投与はできないのである。総理の発言は国民に大きな誤解を生むものであり、今回のコロナ騒動における一連の対応の稚拙さはこのような実態を知らない発言が大きな要素となっている。

患者全員がアビガンを服用できる訳ではない!

 ここのところ、有名な方々が「アビガンが効いた」というコメントをSNS等で公表しているが、日本感染症学会によれ

・特別な治療法はなく、二次性の細菌性肺炎の合併に注意する

・新型コロナウイルスによる感染症に対する特別な治療法はない

・脱水に対する補液、解熱剤の使用などの対症療法が中心

・一部、抗HIV薬(ロピナビル・リトナビル:カレトラ)や抗インフルエンザ薬(ファビピラビル:アビガン)が有効ではないかという意見もあるが、まだ医学的には証明されていない。

・新型コロナウイルス感染症による死亡の原因に関しての情報は限定的ですが、高齢者における死亡例が多いことからも二次性の細菌性肺炎の合併には十分注意する必要がある。

・ステロイド等の使用に関する知見も不十分である。

・本邦において新型コロナウイルスの分離・培養が成功したことから、将来的なイムノクロマト法による迅速診断法の確立、また SARS や MERSを含めた新型コロナウイルス感染症に対する特異的な治療薬の開発が期待される。

が現状である。

 例えれば、医師は戦いに際して有効な武器を持たないで戦っている。一方、患者はアビガン服用を希望したとしても必ずしも投与されるとは限らず、たまたま治験施設に入院できれば投与される可能性がある。すなわち、残念ながら、入院する施設の違いによって治療が異なり、治療の公平性が保たれていない。

現状で考えられる薬剤に関してまとめると以下のようになる。

【日本国内で入手できる薬剤の適応外使用】

・カレトラ(HIV感染症薬:上の表参照:プロテアーゼ阻害剤:1回2錠1日2回又は4錠1日1回)

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00110/031600009/

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/16/06694/

重症患者の著明な改善、死亡率の低下、ウィルスの消失は見られなかった。

(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14305)

※日本感染症学会のコメント

(http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_antiviral_drug_200227.pdf)

現在日本では COVID-19 に適応を有する薬剤は存在しない。よって行う事のできる治療 は、国内で既に薬事承認されている薬剤を適応外使用することである。使用にあたっては 各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行う事とする。本指針では現時点で日本での入手可能性や有害事象等の観点よりロピナビル・リトナビルを治療薬と して提示する。今後臨床的有効性や有害事象等の知見の集積に伴い、COVID-19 の治療の ための抗ウィルス薬の選択肢や用法用量に関し新たな情報が得られる可能性が高い。

投与方法(用法・用量):

1. ロピナビル・リトナビル(カレトラ®配合錠):400mg/100mg 経口 12 時間おき、10 日間程度

2. ロピナビル・リトナビル(カレトラ®配合内用液):400mg/100mg (1 回 5 mL)経口 12 時間おき、10日程度

ロピナビルは HIV-1 に対するプロテアーゼ阻害剤として有効性が認められている。  シトクローム P450 の阻害によりロピナビルの血中濃度を保つためリトナビルとの合剤(ロピナビル・リトナビル:カレトラ)として使用される。コロナウイルスに関する明確な作用機序は明らかにされていない

・クロロキン(抗マラリア薬):COVID-19 に対する効果は不明であるが,In vitro での抗 SARS-CoV-2 活性が示されている.

『日本感染症学会「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方・第1 版」抗ウイルス薬を検討する患者』には,次のように記されている.

*50 歳以上の患者で、低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった患者

*糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患,喫煙による慢性閉塞性肺疾患,免疫抑制状態などのある患者,低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった患者

*年齢にかかわらず,酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある

患者

この考え方では,呼吸不全の出現(通常は第7病日以降)を必要条件としているため,早期投与とならない可能性が高い.抗ウイルス薬の有効性については,今後の中国などからの臨床試験の結果が待たれる.

・アクテムラ(抗リウマチ剤:「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質「インターロイキン(IL)6」の働きを抑える薬:1回8mg/kgを4週間間隔で点滴静注)

 大阪はびきの医療センターでの治験

https://www.asahi.com/articles/ASN4F5FZSN4FPLBJ001.html?iref=pc_ss_date

・FOY(新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際に、細胞の膜上にあるACE2と呼ばれる受容体たんぱく質に結合した後、やはり細胞膜上にあるセリンプロテアーゼと呼ばれる酵素の一種であるTMPRSS2を利用して細胞内に侵入していることを突き止めた:1回200mg1日3回)

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00110/031600009/

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/16/06694/

・プラケニル(hydroxychloroquine)1日1回200mgまたは400mg:SLEの適応薬剤であるが米国で有効性があったとされる。また、国立病院機構福岡東医療センターの論文がある。

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200310_2.pdf

 SLE、皮膚エリテマトーデスの適応を有するが、網膜症を起こす。臨床的な有効性があったと中国国家衛生健康委員会が報告している。

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14305

・BCG:比較的前向きな報告もあるが(https://diamond.jp/articles/-/234432?page=4)、否定的な意見もある。(https://www.gohongi-clinic.com/k_blog/4264/

・ビラセプト(抗HIV剤:プロテアーゼ阻害剤)+セファランチン(白血球減少治療剤)

抗エイズウイルス(HIV)薬ネルフィナビルと白血球減少症治療薬セファランチンの併用が効く可能性があるとの研究結果を、国立感染症研究所や産業技術総合研究所などのチームがまとめた

日本国内で入手が困難な薬剤】

レムデシビル(核酸アナログ薬):抗エボラウイルス薬として開発中であるが,コロナウイルスにも活性を示す.最近,MERS-CoV感染霊長類モデルで治療効果が確認された.

・アビガン(ファビピラビル(RNA 合成酵素阻害薬)):投与量はSFTS に対する治験や医師主導型臨床研究に準ずる.In vitro での抗ウイルス活性が確認されている。国内で承認済みであるが条件付き治験中。

・オルベスコ(シクレソニド(吸入ステロイド薬)):SARS-CoV-2 に対し抗ウイルス活性有

 200 μ g インヘラー1日2回,1回2吸入,14日間.(日本感染症が学会による治験施設囲い込みにて入で困難)

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00110/031600009/

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/16/06694/

 シクソレニドの使用法については

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_note_ciclesonide.pdf参照