「新型コロナウィルス感染症対策としての自衛隊派遣について」考える

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 岸防衛大臣が12月8日夕方に旭川市に自衛隊看護官の派遣命令を下すという報道の中で、岸防衛大臣は8日午前中の会見では「要請をそのまま受け入れるのはかなり困難を伴うのではないか。」と述べ、今後の派遣も慎重に吟味していく考えをにじませた、という一文が載っており、派遣は苦渋の選択であった可能性がある。その背景を考えてみた。

 自衛隊の災害派遣について原則的に考えてみる。まず、新型コロナウィルス感染症は「災害」なのであろうか?「災害」とはWHOの定義によれば、「影響を受けた地域において、地域自身の持つ医療資源のみでは対応し切れないような、広範囲の人的、物的、環境的損失を引き起こす社会的機能の深刻な混乱である。」とある。今回の新型コロナウィルス感染症の蔓延は確かに緊急事態ではあるが、あくまで広範な人的損失であり、その点では多数傷病者発生事案である。また、本当にその地域の医療資源が著しく損なわれ社会的機能が深刻な混乱に陥ったとは必ずしも思えない。

 さらに、自衛隊の災害派遣の3原則は、緊急性、公共性、非代替性、である。差し迫った必要性がある、 公共の秩序を維持するため人命又は財産を 社会的に保護しなければならない必要性がある、という2点においては十分原則を満たしていると言える。しかし、 部隊が派遣される以外に他の適切な手段がない、ということを満たしているとは必ずしも言い難い。医療行政の将来展望の甘さが招いた事態ともいえるからである。

 厚労省の地域医療構想による、①感染症病棟が2000年の2,396床から2018年の1,882床までに減少、②高度急性期・急性期の機能を担うことが多い公立病院の統廃合計画、③効率一辺倒で余裕のない地域医療構想のスタンス、等の医療改革進行中に起こった今回の新型コロナウィルス感染症である。「感染症病床、必要な集中治療室等の機能」を減少してきた結果として、今回の稚拙かつ貧弱な対応を生んだと言っても言い過ぎではない。

 現在の診療報酬では病院は90~95%の病床利用率を維持しないと黒字にならない構造であるが故に、今回のコロナ危機では患者の7割を公立・公的病院が受け入れた。すなわち、コロナ患者を受け入れやすい高機能病院では公立病院の割合が高いだけではなく、公立病院の病床利用率が民間よりも低く、結果的に患者を受け入れる余裕があったためとの推測もある。(二木 立:コロナ危機後の医療・社会保障改革)。すなわち、本邦の病床数の約6~7割を占める民間病院は新型コロナウィルス対応に十分向かうだけの体力がない。このことは当初から厚労省の十分承知していたはずである。

 また、自衛隊の感染対策の目的は、疾病としての感染対策ではなく、兵器としての微生物テロに対する国土防衛である。しかも、衛生部隊は基本的に部隊運用であり、衛生部隊のみの独立した運用は行われないはずである。自衛隊の運用上、看護師のみが派遣されるということは異例の事態である。本来の感染対策の目的が異なっているだけではなく、自衛隊の運用自体の在り方も問題と言わざるを得ない。

 自衛隊の存在意義、原則を鑑みた場合に、今回の件も含め政治の道具として政治家や行政のパフォーマンスに安易に利用され過ぎていることを憂いでいる。岸防衛大臣もこのことを憂いた結果の8日午前中の発言と信じたい。自衛隊幹部自体の上昇志向を見透かされて、挙句、 自衛隊の本来の在り方についての 意識が著しく低下している。表面的な「愛される自衛隊」の姿だけではなく、本来のあるべき姿、国ためにどうあるべきか?自衛隊自身が声を発する時期である。

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