寒冷期や寒冷地の乗船には浸水低体温症対策は必須:救命胴衣などの溺水対策だけではなく、浸水低体温症対策のHELPやHuddle Postureの乗船前教育の徹底が重要

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 『知床沖は「水温1桁」、救命胴衣着ても体温低下…水中で低体温症は「溺れる可能性高い」』というタイトルの記事の中に、『低体温症に詳しい帝京大病院(東京)の三宅康史・高度救命救急センター長は「急激に体温が奪われれば、筋肉が動かなくなり、脳の活動は衰え、心拍も徐々に減ってくる。もし水中で低体温症となれば、溺れる可能性も高くなる」と話す。三宅センター長は「救命胴衣を着ていても体温は奪われ、意識がなくなれば顔を上げ続けることは難しくなる」と語った。』とあった。正にその通りである。寒冷地や寒冷期の乗船には溺水対策は勿論、浸水低体温症対策も必須である。

 Immersion hypothermia(浸水低体温)は通常水温25℃以下で生じる。水の熱放散能力は空気の25倍以上であるため、水中ではより急速に低体温になる。冷水の中で持続的に体を動かすこと(暖を取るため泳ぐなどの運動)は、かえって身体の周囲の冷水の対流による熱損失を増やし、結局はさらに悪化し、より早く低体温症に陥る。冷水の中での低体温症の発生を少なくするために、heat escape lessening posture(HELP:単独の場合)、huddle position(多数の浸水者がいる場合、皆で縮こまる)が推奨されている。Environmental Trauma I : Heat and Cold. Prehospital Trauma Life Support 2021:581-628の挿絵を紹介する。

北海道の遊覧船事情などでは、救命道具装着等の安全ばかりではなく、浸水低体温予防策も乗船の前に徹底すべきであろう。

浸水低体温症で死に至る身体の反応や機転には4つの過程が存在し、『1-10-1』の原則が関与する。

①最初の浸水と低温ショック反応:犠牲者は自分の呼吸を1分間コントロールできる

②短時間の浸水と動きの消失:犠牲者は10分間水から出ようと意味のある動きをする

③長時間の浸水と低体温症発生:犠牲者は低体温症になり意識を失うまでに1時間

④救助の前、中、後、周囲による救助は失敗する。前の3つの過程を生き残れば、犠牲者の20%までが救出の間、この失敗を経験するであろう。

『1-10-1』によれば、浸水では1時間以内の救助が望ましい。

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