ロシアのウクライナ侵攻における兵士の能力について:未だに安定を回復するには決定的な役割を行うのは兵士である

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 いろいろな報道を見聞きすると、ロシア兵とウクライナ兵の戦闘能力について、士気の優劣が戦闘能力に大きく影響しているという解釈が多いが、果たしてそれが大きな主因なのであろうか?と自分なりに勉強・検討してみた。

 そこでNational Academy Pressの「Making the soldier decisive on future battlefields(兵士を将来の戦場で決定的にすること)2013」を読んでみた。米軍はイラク、アフガン以降、兵士の教育について大きな変革をしたようである。論文の冒頭に以下の記載がまとめられている。

『米軍は兵士、水兵、航空兵、海兵隊が「公平な土壌(level playing field)」で敵と戦うべきではないと信じている。戦闘員個人は勝つために戦闘に参加する。そのためにも、M1A2戦車、F22戦闘機、シーウルフ型攻撃潜水艦のような、敵の潜在的能力に匹敵するような武器、決定的な武器を開発するために国はその技術力と産業力を駆使してきた。しかし、国は現在『持続的な紛争の時代(era of persistent conflict)』と認識される事態に従事し、そこにおいて、もっとも重要な武器は小部隊として活動する歩兵であると言われている。ベトナム、朝鮮、第二次世界大戦以上に、今日の兵士は通常の敵や不正規の敵の両方と戦う準備をしなければいけない。イラクやアフガンの結果から米国の兵士は手ごわい戦闘員である一方、その当時の一連の器材と支援は巨大な武器群によって示された圧倒的能力と同程度の能力を謳歌できなかった。未だに安定を回復するには決定的な役割を行うのは兵士である。 個々の、または小さな部隊で行動する歩兵が圧倒的能力の技術的要件を確立するには研究が必要である。歩兵を決定的な武器にするには、どのような技術的および組織的能力が必要か?変化する、不確実で、複雑な将来の環境において、それらの歩兵が決定的であり続けるためには、どのような技術が役立つか? 研究はシステム工学の歩兵や小規模部隊への適用性を調べ、同様に、兵士を決定的にすることに関連する技術分野への適用性、この分野では特に私たちが今日も犠牲者を出している(接触への移動と遭遇の可能性)が、を検討する。考慮される技術領域には、状況認識、武器、機動性、および 保護、戦場環境への適応(衣服、冷却など)、通信、 ネットワーキング、ヒューマン ダイナミクス (例: 物理的、認知的、行動的)、および後方支援 (例: 医療援助、食料、水、エネルギー)が含まれる。NRC(国家研究会議:national research council) は、これらの要件を検討するための特別研究委員会を設立する。 この委員会は:1. 歩兵が戦場で決定的な武器になるために必要な圧倒的要素を決定する。個々の兵士と小隊(分隊サイズ以下)の一部としての歩の両方を考慮する。2. 歩兵と小規模ユニットが戦場で圧倒的な能力を獲得するため最適な技術的要件を特定する。現在および将来の両方において、米軍と敵の間のバランスに影響を与える可能性のある技術と社会の傾向を考慮する。3. 新たな、あるいは増加した科学技術的投資が決定的な歩兵の能力の開発を促進するような、短期、中期、および長期の技術を特定する。 4. 将来の戦場において兵士に決定を下させる上で、そのような投資の相対的な重要性を決定する。』

 さらに、戦闘範囲の大きさと小部隊の作戦が大きく変化してきたことを機適している。

『多様な潜在的戦闘(攻撃的/防衛的)と安定を達成することにおける小さな部隊(中隊(company)以下)の役割は、時間とともにより重要になった。さらに、機械化された最初の湾岸戦争の国対国の戦闘と初期の地上戦(中央ヨーロッパでのソビエト侵攻に対する冷戦ために準備を含む)から、ゲリラとテロリストの戦術を使う国家ではない相手に戦争するという風に内容が推移するにつれて、小部隊作戦行動領域が大幅に増加してきた。例えば、2000年ごろ、旅団(brigade)連合戦闘部隊(BCT:brigade combat team)の作戦の領域は、およそ2,700平方キロメートルでした。2011年に、4回目のBCT(第10の山岳師団)は、13,000平方キロメートルが担当範囲になった。』

  以上から、今回のロシアのウクライナ侵攻は、形的には国対国の戦争で従来型であるが、個々の戦闘を見る限りは、小部隊の能力の優劣が勝敗を決しているように見える。戦闘を学問的にみた場合には、この侵攻から兵士の教育にとっては重要な課題が示されていると考えられ、台湾有事に備える意味でも内容分析は重要であると思われる。

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