防衛省でも輸血に関する議論が展開されているが、フランスの状況をまとめた論文である。
世界の年間死亡の約8%が外傷によるものであり、戦闘環境においては、出血が最も予防可能な死亡原因とされている。そのため、早期輸血とバランスの取れた蘇生法(血液成分の適正比率での補充)が重要であると強調されている。
フランス軍医療部隊・輸血センターの輸血ドクトリンは、①ドナー選定・採血・スクリーニング・安全管理・追跡・監視・教育訓練までを体系化している、②「戦闘現場(負傷直後)から最終治療施設まで」の全過程をカバーする前線輸血体制を構築している、③特徴的なのが「ゴールデンアワー・ボックス(Golden Hour Box, GHB)」という専用輸送容器。温度監視機能付きで、最前線まで血液を安全に輸送できるよう設計されている、ことである。優先される血液製剤と特徴を以下の表にまとめた。
| 優先度 | 製剤名(和名) | 主要特徴(短評) |
| 1 | 冷蔵・低力価O型全血(cs-LTOWB) | O型(Rh陽性)男性ドナー、抗A/B低力価(<1:64)を選別し「事実上の万能全血」として運用。+2〜+6℃で最大21日保存。前線での即時輸血に最優先。(cimm-icmm.org) |
| 2 | 赤血球(RBC)+フランス製凍結乾燥血漿(FLyP) | RBCは貧血改善、FLyPはABO不問・長期常温保存・短時間で再構成可能。前線・遠隔地での実用性が高い。(cimm-icmm.org) |
| 3 | 温かい新鮮全血(wFWB) | コンポーネントが使えない場合の代替。感染スクリーニング・安全性管理は重要。(cimm-icmm.org) |
| 補足(課題) | 血小板製剤 | 血小板は保存期間が短く前線での安定供給が困難。今後の課題。(cimm-icmm.org) |
前線での運用課題は、広大な作戦地域(例:サヘル・サハラ地帯)では、搬送時間の長さが大きな問題となり、「負傷点に近い場所での輸血実施」が重視されている。主な課題として、①電源・冷蔵設備の確保、②サプライチェーンの脆弱性(特にウクライナ紛争などで顕著)が挙げられ、提案される解決策として、①事前ドナー登録・スクリーニング、②携帯型冷蔵・加温装置、③小規模分散型血液デポの設置、④ドローンによる輸送、などが挙げられる。
考察・示唆される事柄としては、①軍事・人道医療の現場では、「全血優先 → 成分療法補完」という流れに変化している。中でも、凍結乾燥血漿(FLyP)は、資源の乏しい環境で極めて有効、②O型・男性・低力価ドナーを選ぶことで「安全な万能全血」の運用を可能にしている、③「現場で輸血できる体制(GHB導入)」は、民間救急(例:離島や山間部の外傷治療)にも応用可能である、が挙げられる。ただし、感染リスク、供給網の維持、長期保存技術など課題も多い。本論文は軍事向けの研究だが、災害医療・遠隔医療への応用可能性も示唆している。今後の展望として、①前線環境での血小板製剤の安定供給、②長期保存が可能な新しい血液製剤の開発の必要性、③医療従事者の輸血教育・訓練強化の重要性の強調、が挙げられる。
最後に、本論文の他に、Joint Trauma System Clinical Practice Guideline ( JTS CPG) ; Prehospital Blood transfusion、Dried blood plasma project to help save soldier’s lives launches、Japan to Make Urgent Care Blood Products for Self-Defense=Forcesを比較して、主要国の前線における輸血方針を表にまとめたので、参考にされたい。
