Preparing for the future of combat casualty careによれば、米国本土から遠方の治療提供や治療やサプライを促進するための同盟国との安全協定を結ぶと同時に、母国に近い脅威について考える必要がある。長距離精密ミサイル攻撃から米国本土を守るために重要なネットワークは北極・亜北極に位置する基地の集合が枢軸である。米国国防省・国家安全保障省は祖国防衛の主要作戦を維持するため北極の作戦の重要性と持続性に大きな注意を払っている。ロシアはこの地域にたくさんの軍事施設を持っている。一方、米国はアラスカ、グリーンランドに数か所の基地を持ち、同盟国のカナダ、デンマーク、アイスランド、ノルウェイ、スェーデン、フィンランドが北極の作戦支援を行っている。 医療的にも 、北極は気温差、積雪量、乾燥、日照時間などにより、凍傷、脱水、局所的疾病、高山病に対する適切な訓練も必要とされている。以上のように、本書では米国本土防衛のための北極圏の重要性が論じられてきているが、南極経由のミサイル防衛は論じられていない。
Preparing for the future of combat casualty careによれば、米国国防省は起こり得るCDO(contested, degraded, or operationally limited)に対して、米軍が攻撃に耐え回復できることを確実化する軽減作戦や技術に必要な投資をすると同様に、如何に米軍の力と作戦を最良に発揮するかついて考えている。積極的な抑止力、いわゆる敵の攻撃力を封じる役割、としては、例えばパトリオットミサイルの防衛システムがある。一方、受動的防衛手段や積極的防衛手段を通過した敵のミサイルの損害を低下させることも必要である。受動的防衛手段としては爆風や榴散弾から守る固いシュエルター、燃料備蓄の分散、カモフラージュなどがある。いずれにしろ、施設や整備だけではなく貴重な人材(市民も軍人も)が失われ、結果として軍の能力が低下するため、全体の軽減方策では医療支援が重要になっている。イラク、アフガンにおけるRole1から5までの階層的戦傷医療体制ではミサイルによる大量戦傷者には不十分であり、収容能力、治療能力、情報や物資の総量、SurgeについてMTF(medical treatment facility)の向上、医療システムのネットワークに邁進している。医療システムのネットワーク化には同盟国の支援が要点の一つである。各同盟国では部分的支援から全面支援まで支援の程度の温度差はあるにしても対応を求められている。日本も求められていると思うが、その内容は軍事的な支援内容と同様、明らかにされていない。
米国では8月5日当ブログで紹介したように、crisis standard of care(危機管理基準)と呼ばれる「突然の災害や住民の健康危機の時に何万人あるいは何十万人と発生する多数の犠牲者に対して可能な最良の医療を提供する」ためのフレームワークが存在する。その適応指針として、①広範囲にわたる災害や壊滅的な災害により、通常の医療水準を満たすことができない場合に適用される、 ②主要な資源の利用可能性を拡大し、臨床現場に与える資源不足の影響を最小限にするという共同の目標を持っている、 ③通常の治療を受ければ助かる患者が亡くなることを認識しながら、可能な限り多くの命を救うことに努める、 ④危機管理基準を実施するには、救命処置を受けるための患者をどのようにトリアージするかなど、限られた資源の配分に関する施設固有の決定が必要となる。この4つの指針の中で、特筆すべきは③であり、「ある傷病者たちが他の状況下では生存し得たかもしれないにもかかわらず、より多くのその他の傷病者の利益のために犠牲になること」を許容していることになる。このことは医学倫理や法大きな問題や課題を残しているが、今回の新型コロナ禍でもcrisis standard of careが論議されている。日本でもこの議論が早急に必要であり、国民に理解を求めることが必要不可欠である。
米国では、crisis standard of care(危機管理基準)と呼ばれる「突然の災害や住民の健康危機の時に何万人あるいは何十万人と発生する多数の犠牲者に対して可能な最良の医療を提供する」ためのフレームワークが存在する。その適応指針として、①広範囲にわたる災害や壊滅的な災害により、通常の医療水準を満たすことができない場合に適用される、 ②主要な資源の利用可能性を拡大し、臨床現場に与える資源不足の影響を最小限にするという共同の目標を持っている、 ③通常の治療を受ければ助かる患者が亡くなることを認識しながら、可能な限り多くの命を救うことに努める、 ④危機管理基準を実施するには、救命処置を受けるための患者をどのようにトリアージするかなど、限られた資源の配分に関する施設固有の決定が必要となる。この4つの指針の中で、特筆すべきは③であり、「ある傷病者たちが他の状況下では生存し得たかもしれないにもかかわらず、より多くのその他の傷病者の利益のために犠牲になること」を許容していることになる。このことは医学倫理や法大きな問題や課題を残している。
日本医師会の患者の権利に関するリスボン宣言では「供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者はすべて治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利がある。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければならない。」と指摘している。また、災害時の倫理(高橋隆雄監訳:頸草書房 東京)には、「災害が起こり、助けられる人すべてを救うのに十分な資源がない場合は、何が起るだろうか。SGNW(save general number who:〇〇という人を助ける)に従って行動することは道徳的に正当化されるだろうか。答えは否である。(中略)道徳的な問題は生と死に関する裁量を事前であれ事後であれ市民には透明ではない方法で個人の手に与えていることである。」と記載されている。以上の2つから、医療資源の著しい制限下でも、全ての患者は治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利があり、さらに、ある特定の人だけを助けるという選択は市民に透明でなければ成り立たない。