「防弾チョッキ」だけでは被弾から救えない:戦闘を後方から支える本質的な医療支援を行うべき。

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 日本政府がウクライナに「防弾チョッキ」を提供するという報道があった。一般人には、「防弾チョッキ」を着用していれば大丈夫という誤った認識があるので、今回は「防弾チョッキ」を着用し被弾した時の防護服(防弾チョッキ)背面鈍的外傷(BABT:behind armour blunt trauma)について説明する。詳細はMilitary injury biomechanics : the cause and prevention of impact injuries. CRC Press New York 2017を参照されたい。

 防護服には爆風の榴散弾や低速度・低エネルギー銃弾(9mm)に対して設計されたソフト型と7.62mmと12.7mmのライフルのような高速度に対するハード型がある。最近の防護服は(銃弾を弾き飛ばすことはなく)侵入するピストルやライフルの弾に負け、そのエネルギーや運動量を防護服の変形に変えること(エネルギーや運動量を吸収する)で身体を防護する。防護服の背面変形(BFD:backface deformation)はソフト型の防護服では直接的な変形、ハード型では折れて変形するため、防護服の背面の胸部・腹部に鈍的外傷を惹き起こす。この損傷をBABTと呼んでいる。

 胸部に被弾した時は防護服の背面変形と同様に胸部を通るストレス波の伝播により、BFDは局所あるいは遠位の骨折、挫傷、出血を起こす。BABTは被弾した部位から遠位の臓器や器官、例えば、脳、心臓、脊髄神経、腸管、にも重篤な損傷を生じる可能性がある。BFDによる損傷は防護服のタイプや形態により異なり、各国、各機関で研究されている。小火器や榴散弾の脅威のために設計され発売されたセラミック防護服の失敗に起因した米兵の死亡は無かったことを2014年の米軍の報告では強調した。これに基づき、米軍では戦闘中の兵士の適切な生存率を持つハード型の防護服を配置した。一方、法執行における公開された数少ない報告ではザイロン防護服の悲惨な失敗がある。ザイロン防護服に関しては東洋紡績が関与していたとの報告がある。

 BFDによる外傷に関しては、Mirzeabassov等の研究公開されている有効な最も重要な疫学であるので、彼らによる外傷の程度と性質を示す。

 外傷の程度と戦闘復帰に関しては次のようにまとめてある。

 しかしながら、この疫学的データの理解には、同時に当時のソビエトの軍医療サービスの詳細を知ることが重要である。①アフガニスタンのソビエトの経験から、拡大したデータ解析が9名の外傷犠牲者から得られた。②90%以上が航空後送で、たった4%が中央軍事病院(Central Military Hospital)に6時間以内に搬送された。 ③負傷者の80%以上が初期治療を受けた。 ④重症外傷の分布は受傷から治療で変化し、治療までの時間の増加は外傷の重症度を悪化させ、また、病院に着くまでに死亡するため重傷者が減少した。 ⑤より重症なBABTは中央軍事病院に到着する前に死亡する著しいリスクがあると推測される。 ⑥これはしっかり記載された防護服と関連する公開された有効なABTの包括的疫学の単一の例である。 ⑦外傷治療はソビエトと西欧軍隊とは著しい相違があり、損傷分配も変わる。

 つまりは、後方支援である戦傷医療体制がしっかり確立されていないと、防護服の機能は十分生かされない。ウクライナの防護服を送ることを否定はしないが、ウクライナの現状を考えれば、防護服の機能は十分果たせるとは考え難い。防護服よりも本質的な医療体制を支援することがより重要である。

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