旧軍引きずる人命軽視

2014年8月14日東京新聞朝刊に載った記事のタイトルである。2006年4月愛知県の小松基地からクウェートのアル・アルサレム空軍基地に派遣され大けがをした元三等空曹の池田さんが国を相手取り1億2,300万円の損害賠償を求めて名古屋地裁で続けている記事です。

 その中に、『同年7月4日、米軍が主催する長距離走大会で米軍の大型バスにはねられ、左半身を強打して意識を失いました。激しい痛みから横になる毎日。帰国できたのは2カ月も後のこと。症状は固定してしまい、病院では「何故放置したの」と驚かれるほどでした。』とあり、『どの国の人の命もかけがえのない命です、戦死することにない政治家こそ、戦場に立つ一人ひとりの痛みに想像力を働かせ、断固として平和を守り抜くという強い決意を示す必要があります。』と結んでいます。

 この記事を読んだ際、クウェートではどのような医療を受けたのか?、文化や風習、医療制度の異なる環境下での医療体制は?、本国への後送システムは機能していたのか?正確な情報が得られず今後の参考になるのか?など2014年11月に某衆議員議員に話したことがある。しかしながら結果として何もレスポンスもなく、この時期を境に石原慎太郎氏と自衛隊員の生命をもっと真剣に考え対処して行こうと活動してきてました。

 2018年10月2日フィリピンで行われたアメリカとフィリピン海兵隊の共同訓練参加中、1名(38歳)が10月6日に死亡し他1名(40歳)が肋骨骨折重傷した事案についても、防衛省に問い合わせても「フィリピンで適切な医療を受けた」以上の情報は得られませんでした。医療面だけではなく、レーダー照射問題では韓国に情報開示を強く迫っている防衛省は自分に関する情報は隠蔽するという自己矛盾体質を未だに改める気はありません。 

 この2事案から見ても、防衛省・自衛隊の「人命軽視」の考えはこの4年間に限っても全く進歩が見られず、ただ漫然と事件の風化を待っていたとしか考えられません。今までも現在も自衛隊員の安全管理に万全を尽くしていると思えない状況下で今回の訓練の指揮者である青木伸一水陸起動団長の「痛恨の極み。ご冥福を心からお祈り申し上げる。今後とも訓練の安全管理に万全を期す」の言葉はあまりにも軽い。


『防衛問題研究家・桜林美佐氏 防衛費は増えているのに…「兵站の危機」自衛隊の物資不足を放置するな 』を読んだ

桜林美佐氏の発言の中で「弾は足りているか」という部分が気になった。防衛省の平成31年度概算予算要求額は5兆2926億円であり、人件費2兆1908億円を引くと3兆1018億円になる。F-35A6機916億円の他にF-35Aに搭載するスタンド・オフ・ミサイル73億円となっている。滞空型無人機81億円、新早期警戒機2機544億円、中距離地対空誘導弾1式138億円、短距離地対空誘導弾1式46億円、護衛艦建造2隻995億円、潜水艦建造1隻771億円、陸上配備型イージズシステム2,352億円、16式機動戦闘車22両164億円、輸送機(C-2)取得2機457億円、魚雷の整備445億円、などなど数字が並んでいる。ここで疑問に思うことが2点ある。

①勇ましい装備が並んでいるが、桜林氏の懸念するところの肝心の弾は有るのであろうか?私は専門家ではないのでネットで検索するとサイドワインダーミサイル約2,000万円、AIM-120約4,500万円、AAM-4約8,000万円である。宝くじ1等賞金10億円でもサイドワインダー50発にしか相当しない。島嶼奪還想定実践訓練がなされているが装備・兵器は確かにあることはあるが本当に敵を撃退できるほどの弾・ミサイルがあるのか疑問である。韓国海軍駆逐艦のレーダー照射が議論になっているが、「米軍なら敵対行為とみなし撃沈」という記事もあった。韓国からの誠意ある対応が見られないばかりか見下されたかのようなコメントが続いている背景に自衛隊装備が「弾」がなく「張り子の虎」と思われ馬鹿にされていないことだけを祈る。

②衛生に関しては第一線救護衛生科隊員の教育資器材の購入2億円、自衛隊入間病院建設41億円と圧倒的に少ないばかりか、相も変わらず資器材・設備・施設などのインフラ整備のみで、肝心の戦傷治療体系の構築(TCCCと5層の治療レベル体系)には程遠い。 防衛医科大学校は1973年に開設され2016年3月までの44年間に医学科卒業生2,432名を育成しているが、2015年のデータでは医官は820名しかおらず、2009年は789名であり6年の間に31名しか増加していない。防衛医科大学校は単に医師を育成しているだけで医官を養成育成する大学校とは言い難く、これまた「張り子の虎」であり、戦傷者の生命は救えない。

竹下通り通り魔事件

報道によれば日下部容疑者は「テロを起こした」という趣旨の話をしていたとあった。これは「テロ」ではなく、悪質な通り魔事件である。

テロリズムの定義は100以上あり、

the General Secretary of the United Nations

人々を脅かし、政府や国際的な組織を強要し、何かをさせたり、させなかったりする目的を持ち、市民や非戦闘要員に死や重大な身体損傷を起す意図的なあらゆる行動

the Federal Bureau of Investigation

政府、市民、あらゆる部分を脅し、強要し、人々や財産に対する違法な力や暴力を使用し、そして、政治的あるいは社会的目的を推進する

定義は様々あろうが、

「テロリストは、彼らの組織、団体、理由、個人の知名度を得るために、非戦闘員に対して暴力を使用する」

と言われている。

内閣官房参与から元内閣官房参与へ

 11月27日に12月18日の記者会見が決まりました。翌28日に石原慎太郎氏同席の上、防衛省高橋事務次官との面談が12月4日に設定されました。その面談の席上、高橋事務次官から「参与の立場を考えてください」「参与の肩書があるにせよ、無いにせよ、時々話しましょう」というお話がありました。その2日後の12月7日には原内閣総務官から「参与の任期は12月28日で一応終了したいので日付の記載の無い辞表を提出してください」との連絡があり、簡易書留で書類が届きました。会見の準備に忙殺していたため提出が遅れたら19日に催促があり、提出しました。

『石原慎太郎×内閣官房参与・佐々木勝 緊急提言・このままでは日本は守れない~医療不在の自衛隊~』

主張

 災害現場で自衛隊が救出救助活動する姿を見てさすが自衛隊といつも感服していた。しかし、こと医療に限れば民間のDMATの活躍が著しいものの、医官の活躍が伝わってこなかった為、自衛隊の災害時の医官の役割はどうなっているのであろうかと自衛隊医官との関りを持ち始めた。だが、内閣官房参与を拝命し自衛隊医療の内部を見た現実は驚くべき自衛隊医療の脆弱さであった。諸外国の軍隊医療と比較するどころか民間病院の医師以下といえる絶対的な臨床経験不足を知るに至ったのである。災害時はおろか、万一の戦時においては戦力低下に繋がる危機的状態である。内閣官房参与として任された使命を果たすべく内部から改革改善を防衛省等に訴え努力してきたが、防衛省幹部は常に「改革には長い時間がかかり、先生が思うように早く改善することは無理」という返答で変わらぬ状態である。このような焦燥の中、フィリピンでの訓練中に自衛隊海外派遣で初となる死亡事故がついに起きた。防衛省に事故について外傷起点はもとより病院前治療・病院治療・病院後治療をしっかりレビューすべきと進言しても「フィリピン現地の医療機関で適切な医療受けたので先生の出番はありません」という返答であった。亡くなったのは日本を守る為に派遣された日本人の自衛官である。自衛隊医療は自国の隊員の為どれだけ機能したのか?医療的な裏付けもないまま「今後とも訓練の安全管理に万全を期す」という水陸起動団長の言葉を信じ、現状のまま隊員の命、ひいては国民の命を預けてよいものか──。自然災害が増加する昨今、また日本を取巻く軍事的緊張が高まり軍備拡大の兆しがみられる今、災害医療・自衛隊医療への見地からこの事実を訴えられるのは日本において私しかいないとの危機感に駆られ、己の立場を鑑み熟考の末の緊急提言であるとご理解頂ければ幸いである。

論述

 第一線救護衛生科隊員と戦傷医療の基本概念

 戦闘現場の中で砲火にさらされる状況(care under fire:CUF)、すなわち、本当に実弾が飛び交い被弾する状況下での医療活動を行うために、防衛省は2016年9月から「第一線救護衛生科隊員」という新制度を導入し、2017年6月から育成している。(http://www.med.kobe-u.ac.jp/comed/pdf/handout/h290703_eme_forum_handout_sasaki.pdf)。第一線救護衛生科隊員の資格認定や質の向上のために防衛省CMC(コンバットメディカルコントロール)が設置されている。戦場での医療は軍人としての立場と医師としての立場があり常に軍医はその二重忠誠、すなわち、戦傷医療の本質は『戦傷では時として救命行為よりも作戦行動が優先する場合がある』、の狭間で揺れている。戦傷医療の中でも銃弾が飛び交うCUFで活動する第一線衛生科隊員は医師の育成には多くの時間と金がかかるという合理的な理由から医師ではない。彼らは医師の代わりに砲火の下で自分の安全を危険にさらし行動するため、戦況次第で本来医学的に行うべき処置や治療を行えず、戦闘後には訴訟や叱責の対象になりかねない存在である。

戦傷医療の本質を知らない医官、パクリ疑いをかけられた防衛医科大学校教員

 その彼らを守る役目が防衛省CMC(コンバットメディカルコントロール)にはあるが、そのCMCに参加している空自首席衛生官が戦傷医療の大原則を知らないことを2017年11月に当時の衛生監並びに事務次官に指摘しても問題意識が低く、このような現状では『第一線救護衛生科隊員』の十分なる活動は望み得ない。さらに、週刊朝日オンライン「防衛医大教授がテキスト制作で元自衛官の著書を“パクリ” 抗議でこっそり修正」(https://dot.asahi.com/wa/2018080600061.html?page=)の記事では筆頭編集者である防衛医大救急医教授も含めたそうそうたる医官達が編集した学術書がイラスト主体の一般書から無断引用の疑いをかけられている。教える立場の人間がこの程度では本当に質が保てるかも疑わざるを得ない。

防衛省へ医療的戦略の人材の打診

 2017年6月には、「戦傷には熱傷が多数発生し治療として死体からの同種皮膚移植が欠かせないが、皮膚移植に関しては現状では臓器移植法の枠外、熱傷学会基準による自主的ガイドライン、日本スキンバンクの脆弱な財政基盤などの理由から今現在の民間医療でも大量重症熱傷患者発生時には対応できない可能性が高い」、「化学生物放射線テロ傷病者に関しても汚染や診療能力・技術、風評被害などにより引受医療機関が十分とは言えない」、「医療職までが対象になる危険なテロ現場に防護教育を受けていない民間医療職の活動は不可能であり、かつ危険なテロ現場に一般医療職を派遣する責任は重大なものがある」、など防衛省には軍事的な戦略だけではなく医療的側面から見た戦略も必要であると当時の事務次官に上申したが、「防衛医科大学校、自衛隊病院はいまだ力不足ではあるが、外部の人間は必要としておらず、現に政策参与も従来から外部の人間ではない」と一蹴された。

防衛省・防衛医科大学校のガバナンス低下

 2017年防衛医科大学校病院東病棟の施設改修に関する私の報告書の中で「度重なる設計見直しなどの混乱や経費の増額を招いた原因と再発防止策」に関しては大学校長以下幹部のガバナンス能力低下を報告した。これだけではなく、先ほどの戦傷医療に本質を知らない首席衛生監、パクリを疑われる救急医学教授など、防衛省の組織全体としてのガバナンス低下が疑われる。正論2018年8月号(https://www.fujisan.co.jp/product/1482/b/1653171/)「もし尖閣で負傷者が出ても… 自衛隊医療の恐るべき貧弱」の記事自体は取るに足らないものであるが、記事源がCMC(コンバットメディカルコントロール)の外部識者である杏林大学救急医学教授の発言であり、外部委員としての本来業務であるCMC委員会では一切発言しないにもかかわらず雑誌正論の論調に乗せられ、あたかも自衛隊の医療が著しく遅れている旨の不用意な発言をしたことを衛生監に指摘しても問題にしないことも一種のガバナンス低下と考えられる。

このような状況下、フィリピンの訓練で死傷者発生

 『フィリピンの訓練で交通事故により自衛隊員1名死亡、1名重症』という記事https://www.asahi.com/articles/ASLB73VCCLB7UTIL00D.html?iref=comtop_list_nat_n01新聞などの報道によると10月2日フィリピン人男性が運転する車で一緒に移動していた自衛隊員2名が大型車両と正面衝突し、1名が10月6日夜(7日午前との報道もあった)死亡、他1名が負傷したがその日のうちに退院したという。これに対して青木伸一水陸起動団長は『痛恨の極み、前原2曹のご冥福を心からお祈り申し上げる。今後とも訓練の安全管理に万全を期す』とコメントを出した。本当に『安全管理』に万全を期すなら、この事故を医学的にもしっかりレビューすべきであると考え、「今後このような事故が行らないように分析検討し将来に役立てることが望まれる」と防衛省に要望を出したが、この事故は訓練中ではなく民間移送車による移送中の事故であり「フィリピンで適切な医療を受けたので先生の出番はない」との返事あり、詳細を聞くことはできなかった。起動団長の言う『安全管理に万全を尽くす』には医療の視点が入っているのであろうか。医学的にしっかりレビューするなら、医官や第一線救護衛生科隊員の関わりは勿論、救急搬送体制や応急処置などの病院前医療、根本治療や医療水準などの病院内治療を統合的に分析評価すべきである。また、医療の正当性は必ずしも合理性ではなく感情によって導かれるものであるから、フィリピンと日本の一般人の医療水準を鑑みた場合にはフィリピンでの「適切な医療」ではなく、「フィリピンでは通常受けられないような高度医療を受けた結果死亡した」というコメントでなければ、多くの日本人は納得しないと思われる。2018年1月に提出した南スーダン、ジプチの視察後の報告書、また、2017年10月に提出した当時の事務次官への上申書でも、海外負傷者発生時の際には固定翼機による本邦への後送を進言した。航空自衛隊にはC130に軌道衛星ユニットを組み込んだ、いわゆる『空飛ぶICU』(https://www.youtube.com/watch?v=QiMxvsIZeoE)が存在し、国内の重症患者の航空搬送を行っている。米軍はたとえこのような事故でも軍人の事故には積極的に関与しそれが軍人の支えになっているが、今回の事案は事故から死亡まで4日間の間に『空飛ぶICU』の派遣は検討されたのであろうか。陸上自衛隊の事故であったため航空自衛隊は関与しなかったという各幕のセクショナリズムのため検討されなかったのではという懸念すら感じてしまう。一人の尊い命がなくなった時には、病院前、病院内治療が本当に正しく行われたか、日本への後送の可否などの検証もなしに、ただ適切な医療で亡くなったでは済まされない。

医官・防衛医科大学校の存在意義はあるのか?

 従来から災害に関して自衛隊の救出救助活動は幅広く行われ国民の支持を得ているが、災害時の医官の活動実態は見えてこない。今回の事故も12月4日の事務次官との面談では現地の民間医師が担当したらしく医官の同行の有無が明らかではなく、私の推測では同行していないと思われる。派遣した自衛隊員の生命を他人に任せている現状を鑑みると、起動団長の『安全管理に万全を尽くす』の言葉とは裏腹に、12月1日から8日まで航空自衛隊とインド空軍の共同訓練が報道されているが、参加する自衛隊員への万全な医療体制が組み込まれているとは思えない。医師需給分科会では厚労省が2024年にも需給が均衡しその後は「医師過剰」になると推計している時代に(2016年4月1日 医療・介護行政全般 メディ・ウオッチ)、医官が医官として本来業務を果たしていないなら、医官、防衛医科大学校の存在意義が問われる。

2018年12月10日第一線救護衛生員の最終試験の立ち合いについて

①右胸部と右大腿下部の貫通銃創、意識障害、出血性ショック、②顎顔面外傷、右下肢離断、骨盤骨折、意識障害、気道緊急、出血性ショック、の想定を見学させて頂いた。処置をさせたい、あるいは、処置のための流れが優先して、正直のところ実地臨床からかけ離れた訓練という印象を受けた。
①はsucking chest woundにチェストシールを貼った後の緊張性気胸の処置に的を絞り、②は顔面外傷による気道確保に外科的気道確保を選択させることが主になっている想定と思われる。

①に関しては気道確保のため訓練生は傷病者を必ず座位にしていた。確かに意識のある顎顔面外傷はしばしば自身で座っていたり前屈みになっていたりすることから下顎固定されない顎顔面外傷は座位にしてみるという方法は論理的である。しかしながら、顎顔面外傷もなく、恐らく出血性ショックによる意識障害者を座位にしてその上で経鼻エアウェイを挿入するという処置は正しいのであろうか。重篤な出血性ショックなら座位にした途端心停止に陥る可能性がある。出血性ショックの患者を座位にすることはショック状態を悪化させるため実地臨床上あり得ないことである。さらに、ある訓練生はショック状態にもかかわらず座位のまま緊張性気胸も脱気し、駆血帯によるうっ血を観察し(もちろん仰臥位でもうっ血しないショック状態なら座位ではうっ血するはずがない)、骨髄穿刺で輸液路を作成し輸液して訓練は終了した。処置の一つ一つは完璧なのだろうが、ショック患者を処置開始から後送まで座位を保持したままであり、ショックの病態を理解しているとは言い難かった。

②に関しては逆に顎顔面外傷の気道確保の手技が優先し骨盤骨折が軽視されていた。座位にするならまず骨盤骨折の有無を確認することが重要である。同じように、最初の右下肢離断にタニケットをかける際にも出血量を減らす処置として鼠径部にためらいもなく訓練生が自分の膝を患者の鼠径部に押し当ていた。鼠径部に膝を押し当てただけで骨盤骨折が分かるはずであるが、その後の全身観察で骨盤骨折を認めpelvic bandageを行う流れというが訓練として正解であるため、実地臨床上はあり得ない流れになっている。

訓練生は教えられた通り実践していると思われ、やはり想定を策定している教職、指導している教職の臨床経験や知識が疑われる事態である。第一線救護衛生科隊員の試験は、質の維持は当然のことながら自衛隊の自己満足にならないよう防衛省コンバットメディカルコントロール(CMC)委員会では外部委員の立ち合いを決めたはずであるが皆勤した外部委員は私だけであり、また、私がCMCを辞した後は今回も含めて外部委員の立ち合いがない。外部の目にさらされない自己満足的な医療は危険である。

第1回練度維持訓練 2018年11月1日

今日自衛隊衛生学校で実施された第一線救護衛生科隊員の卒後教育である練度維持訓練の第1回目を見学させて頂いた。訳あって防衛省コンバットメディカルコントロール委員会の外部委員を辞し一般人となって初めての見学である。

今回は聞くところによれば、5名1組で各々グループ内での想定シナリオを教授役受講生役を交互に演じ、自身の練度だけではなく教授法も身につけさせる訓練だそうである。一見学者が意見を言うのはおこがましいが、さらなる進歩を期待した上での提言の一部を述べたいと思う。参考にして頂ければ有難い。
練度訓練というには、第一線救護衛生科隊員としての修練度を確認し向上させ質を保証することが目的と思われるが、今回はさらに教授法まで伝授するということであるので、まず訓練ということ自体を考えてみる。
訓練(Training)とは修練一連の動きあるいは方法または訓練される過程あるいは経験を指し、試験(testing)と実習(exercise)がある。試験は人の知識・能力・資格を決定するための質問、問題、習練の一連セットであり、実習は実際的な活動や行動や実践、身体または心理学的トレーニングや成長のための活動であり体系的な研修を意味する。実習はさらに図上(机上)訓練(table exercise)、ゲーム(game)、教室実習(classroom exercise)、部門別訓練(functional exercise)、総合訓練(full-scaled exercise)があり、目的や獲得目標により切々なものを選ぶ。管理監督者(指揮者)になる可能性のある者は実践的な訓練を通して迅速かつ正確な決定を下せるよう平常時からの鍛錬が必要であり、そのためにはfull-scale exercise が重要と言われている。
訓練には①特殊な課題に対応するに十分なレベルに到達させ、その能力を維持するための修練、②治療中に重要かつ必要な処置を頻回に実行できるよう重要かつ必要な処置を多くそうでない処置を少なくするという訓練中の処置の頻度を変える、という2つのステップがある。さらに、いくつかの処置は重要で非常に複雑であるため訓練の持続が必要である。多数傷病者発生では非常に簡単なプロトコルが必要となり、また、その場限りの基本で実施されるため「Just In Time Training」と呼ばれる訓練も必要である。exerciseとdrillは論理的には同じであり同様に扱われるが、前者は予期された想定や方法に沿って練習させ受講生にその能力を維持させることを主眼とし、後者は精度管理のために予期しないシナリオで行われ将来の訓練を改善するための方法を模索する。受講生の能力や目的によってexerciseとdrillを使い分け訓練の質を向上させる。
この基本的な概念から見るに、今回の練度訓練はexerciseが主であるべきと考えられる。英軍のテリック作戦、へリック作戦でも多くの者は戦闘のプレッシャーのため十分対応できなかったという事実からしても、一つ一つの技術や能力を繰り返し訓練し実践に備える方が良いと考えられるからである。その上でadvance的なdrillを付加するのが最良と思われるが、excerciseとdrillが混在し、かつ、exerciseの練度は今以上の進歩が必要と感じられた。また、今回さらに教授法も伝授するなら訓練方法論に関する学問知識が必要と考えらえるが、現状ではこれも不足していると感じられた。exerciseは予期された方法で「生徒にその能力を維持させることを可能にするために行う」、drillは予期しないシナリオで「従来の訓練を改善するために新たな訓練の方法を提供するために行う」を分かった上での教育実習が求められる。
また、訓練実習法としてはgameである。gameである以上ある程度のリアリティだけではなく修飾が必要であるが、そこには修飾することによってリアリティが誇張され、それによって記憶が鮮明化されることが求められる。
①爆発による下肢切断からの大量出血に際して、まず、必ず衛生科隊員の膝で負傷者の鼠径部を圧迫し出血を抑制した上でCATを装着している。その後、爆風なので骨盤骨折疑いだから骨盤バンデージをするという流れになっている。しかし、骨盤骨折であれば膝で鼠径部を圧迫した時点で分かるであろうし、またこれによって骨盤骨折が悪化する。このような矛盾を分かった上で訓練は行われているのだろうか。骨盤骨折の処置をさせてはいるが、付け足しのような感じで、骨盤骨折の認知の重要性が伝わってこない。
②ショックと言いながら、脈の確認やバイタルの確認が重要視されていない。TCCCのフローチャートでも5分間隔のバイタルチェックは推奨されている。患者の評価、処置の前後、時間経過によるバイタルチェックの重要性が薄く、また、TCCC改定の目玉の一つであるサチュレーションモニターも生かされていない。
③訓練の主体はTFCであり、そこに重点が置かれている。処置中砲火を浴び一旦処置を中止し、制圧後再度処置をするシナリオがある。砲火時には作戦優先という意識づけは充分理解できるが、恐らくこのような短時間に制圧できることはないので、応急処置の中断をどこで行うかを教える出来であろう。例えば輪状甲状靱帯切開であれば靱帯切開までやってしまっても中断するのか、など考えさせた方が良いと考えられる。作戦のためには切開して放置すれば血液など垂れ込みかえって気道を閉塞し死に至らしめるという苦しい決断を迫られることもあり得るというリアリティを伝えるべきであろう。
④戦場では時間的要素が肝要であるにも関わらず時間軸が重要視されていない。この想定では何分以内に終了すべきというメッセージが伝わってこない。

教職はその経験や知識のほかに、教育方法論に通じていないと教育自体が成り立たないが、従来の訓練を見てきて思うのは教官自体への教育が浅くて薄い。

return-to-duty guideline

AAN(American Academy of Neurology)ガイドラインは頭部外傷を受傷した兵士が任務に戻れるか否かのために使用されているので紹介する(Marshall SA,Bell r,Armonda RA,et al:Traumatic brain injury chapter 6. Combat casualty care; Lessons learned from OEF and OIP. Government Printing Office Maryland 2012:343-391)。このような脳震盪後に従軍可能か否かの判断基準や診断基準がわが国にはなく、自衛隊員の身を守るためにも是非検討が必要である。武器を扱う自衛隊員の脳震盪後の戦闘続行能力評価のない現状は隊員だけではなく国民にも不安である。
AAN