米陸軍の基礎研究機関である DEVCOM Army Research Laboratory(The U.S. Army Combat Capabilities Development Command ARL) に対し、米国科学・工学・医学アカデミーが4年サイクルで実施する評価の3年目にあたり、11ある研究コンピテンシーのうち 4分野 を対象として評価したレポートである。各分野における成果と課題・提言を表にした。
| 評価対象となった4つの研究コンピテンシー | 成果 | 課題と提言 |
| 1.Biological and Biotechnology Sciences(生物・バイオ技術) | ・過去6年で大きく成長し、強力なチーム・最新設備・優れた研究水準を確立。 ・微生物群集、バイオマテリアル、合成生物学などで先進的成果。 ・特にプラスチック(ポリウレタン)分解研究は世界的に重要な分野でリーダーシップを発揮可能。 | ・他コア領域・他分野との連携を強化(例:マイクロ流体、計算生物学との連結)。 ・合成生物学の対象生物を他の菌類属へ拡大し、外部専門家の長期訪問で技術習得。 ・データサイエンス/AI活用の近代化戦略の導入。 ・バイオインフォ人材の不足解消。 |
| 2.Network, Cyber, and Computational Sciences(ネットワーク・サイバー・計算科学) | ・優秀な研究チームと重要テーマへの取り組みが評価。 ・量子ネットワーク研究などは世界レベル。 | ・計算数学・計算科学人材のさらなる拡充 ・Layer 3 ルーティング、マルチホップネットワークなど古典ネットワーク基盤の強化 ・サイバー防御の研究設備が不足(IDS、SIEM、各種ツールの導入が必要) ・“機械学習だけでは対処不能な状況” に備え、古典的数理最適化も強化 ・Federated Learning など統合テーマによる各プロジェクトの横断的統合 |
| 3.Photonics, Electronics, and Quantum Sciences(フォトニクス・電子・量子科学) | ・各コア領域で世界トップレベルの研究成果。 ・一部施設は「優れており、世界クラス」。 | ・フォトニクスと量子科学の連携を強化し、ハイブリッド量子–光学システムで世界的リーダーを目指す。 ・メタサーフェス研究者の招聘を提案。 ・古典センサと量子センサの連携で新規技術創出。 ・SiC(炭化ケイ素)ファウンドリは国家的資源になり得るため、人員とリソースの強化が必要。 ・IC設計(アナログ・デジタル・ミックスドシグナルの大学連携と人材確保を拡大。 |
| 4.Sciences of Extreme Materials(極限環境材料科学) | ・材料科学の多くの成果が世界トップクラス。 ・ARLの材料施設は「世界最高レベル」と評価。 | ・ポリマー・樹脂の知見強化のため、産業界(Dow, DuPont等)との連携深 ・「超材料」研究ではハイリスク・ハイリターン型プロジェクトをポートフォリオに追加 ・ML×材料科学の専門家、ポリマー化学者、セラミストなど 追加人材が必要 ・物理ベースのシミュレーション、V&V、UQ などの強化で AI/ML研究の科学的厳密性を向上 |
全体として、多くの研究が 米国内外のトップ研究機関と同等、またはそれ以上 の水準にあり、研究者の質・施設・外部連携は極めて優れているが、一方で、分野間連携の強化、データサイエンス活用、設備の拡充、人材層の拡大 といった改善余地がある。
