このワークショップ(2019年開催)は、2035年の米陸軍における戦闘外傷治療(Combat Trauma Care)の姿と、その実現に向けた課題・技術・組織改革を議論したものである。
主な論点を表にまとめた。
| 戦闘外傷の現状と課題 | 87%の戦闘死は病院到達前に発生し、そのうち24%は予防可能(止血・気道確保など)。最大要因は出血(特に体幹出血)で、デバイスや薬剤による早期止血技術の進化が求められる。 「Golden Hour」概念だけでは不十分で、長期搬送を前提とした“Golden Day”の発想が必要と指摘された |
| 将来戦の特徴と医療要求の変化 | 2035年の戦場は**分散・多領域(multi-domain)**となり、**前方での長時間ケア(prolonged field care)**が不可欠になる。迅速な後送が困難なため、軽量・モジュール式の治療コンポーネント、LSI(Life-Saving Interventions)前方化が重要となる。 |
| データとシステム(Joint Trauma System, JTS)の課題 | 治療データの欠落(“missing dead”)が依然として大きな課題。全戦域で継続的にデータを収集・転送し、リアルタイムで改善可能なトラウマレジストリが求められる。外科・後送チームの確保や訓練の均質化にも課題がある。 |
| バーチャル・AI・自律システムの活用 | AI支援の意思決定システム、ロボティクス、遠隔医療(Virtual Health)、自律型後送(Unmanned CASEVAC)が重要技術と位置づけられた。遠隔環境・分散作戦では、自律的な患者抽出、テレロボティック手術支援も検討されている。 |
| 医療訓練の革新(Simulation & Big Data) | 従来の講義中心の訓練では不十分。VR/AR訓練、シミュレーション、xAPI による技能データ収集、AIを用いた個別最適化学習が将来像とされた。合成訓練環境(Synthetic Training Environment, STE)への統合が必須。 |
| 組織・リーダーシップ上の問題 | 米軍医療では戦争のサイクルごとに準備態勢が揺れ戻る(preparedness cycle)問題があり、 指揮官レベルの継続的コミットメントの欠如が指摘された。医療者の専門性維持、研究開発(R&D)の継続性、プロセス改善の文化が課題。 |
| 再生医療・バイオエンジニアリング | 将来の長期前線ケアでは、組織再生材料、凍結乾燥細胞、皮膚/筋肉組織の“携行型”治療技術が有望とされた。ただしスケール化・生産・規制が大きな障壁。外傷の個別化医療(liquid biopsy など)も将来の方向性 |
| まとめ | まとめ |
| 全体の方向性 | 出血死ゼロの実現を目指すための技術革新(止血、血液代替、診断)。前線で完結する治療能力の拡大。AI・ロボティクスによる医療作業の補完・代替。データ駆動型の医療・訓練体系の構築。戦闘環境での再生医療・組織修復技術の実用化。 軍‐民連携の強化、持続的なリーダーシップ。 |
要員×技能×要員を三次元的にまとめた。
①医官×技能×要員
| 技能(Competency) | 背景要因(Factor) | 求められる具体能力 |
| 外科的止血・損傷制御外科(DCR) | ●出血死、●複合外傷 | REBOA、junctional control、腹腔/胸腔介入 |
| 前線外科(Forward Surgery) | ●後送遅延、●分散戦 | Damage Control Surgery の前方実施、最小装備での外科 |
| 遠隔/テレロボティック外科 | ●MDO、●通信制約、●AI・ロボティクス進展 | 遠隔操作手術、画像診断支援、AI Decision Support |
| ショック・敗血症管理 | ●長時間搬送、●Prolonged Field Care | POCT診断、循環管理、迅速薬剤投与 |
| 熱傷三段階ケア | ●熱傷比率増加、●感染リスク | イメージング評価、酵素デブリードマン、感染制御 |
| JTSデータ入力・品質管理 | ●Missing Dead、●PI改善 | 外科処置・輸血の標準化記録、レジストリ連携 |
| リーダーシップ・要件提示能力 | ●R&D停滞、●調達硬直化 | Clinical requirements の策定、民間連携推進 |
②衛生兵×技能×要員
| 技能(Competency) | 背景要因(Factor) | 具体能力 |
| MARCH順の迅速止血 | ●Preventable Death(出血24%) | 止血帯、junctional device、止血剤 |
| 気道管理(Basic〜Surgical) | ●気道閉塞死 | NPA/OPA、cricothyrotomy、換気補助 |
| Prolonged Field Care(長時間前線医療) | ●後送遅延(Golden Day) | 24時間以上の患者維持(循環・疼痛・感染) |
| TRIAGE能力(含AI支援) | ●Mass Casualty、●分散戦 | AI triage、resource triage、優先度決定 |
| 軽量診断デバイス運用 | ●前線低リソース、●診断不足 | ポータブルUS、ラクト酸、凝固評価 |
| Virtual Health連携 | ●遠隔戦場、●軍医不足 | 遠隔指示の受信、撮像、治療手順の実行 |
| データ記録(JTS前段) | ●Missing Dead | 最初期情報の標準化入力 |
③JTS(system/analytics/registry)×技能×要員
| 技能(Competency) | 背景要因(Factor) | 具体能力 |
| トラウマレジストリ運用 | ●Missing Dead、●品質不均一 | 前線〜後方の連続データ統合 |
| KPI管理(死亡率、pDCR等) | ●医療準備度の揺れ戻り | OutcomeベースのPI運用 |
| センサーデータ管理 | ●AI支援の前提、●POCT普及 | 生体信号・画像・輸血情報の連結 |
| 標準化プロトコル管理 | ●隊・地域差のばらつき | CPG更新、TCCCとの整合 |
| データドリブン意思決定支援 | ●AI・自律システム進化 | Shock予測モデル、triage支援 |
| 訓練データ(xAPI)連携 | ●統合訓練環境(STE) | 個別技能分析、訓練効果測定 |
