Immersion hypothermia(浸水低体温)は通常水温25℃以下で生じる。水の熱放散能力は空気の25倍以上であるため、水中ではより急速に低体温になる。冷水の中で持続的に体を動かすこと(暖を取るため泳ぐなどの運動)は、かえって身体の周囲の冷水の対流による熱損失を増やし、結局はさらに悪化し、より早く低体温症に陥る。冷水の中での低体温症の発生を少なくするために、heat escape lessening posture(HELP:単独の場合)、huddle position(多数の浸水者がいる場合、皆で縮こまる)が推奨されている。Environmental Trauma I : Heat and Cold. Prehospital Trauma Life Support 2021:581-628の挿絵を紹介する。
日本政府がウクライナに「防弾チョッキ」を提供するという報道があった。一般人には、「防弾チョッキ」を着用していれば大丈夫という誤った認識があるので、今回は「防弾チョッキ」を着用し被弾した時の防護服(防弾チョッキ)背面鈍的外傷(BABT:behind armour blunt trauma)について説明する。詳細はMilitary injury biomechanics : the cause and prevention of impact injuries. CRC Press New York 2017を参照されたい。
敵基地攻撃能力についは、国会議員や専門家の一部から「今の時代は発射台付き車両(TEL)からミサイルを射出するわけで、動かない基地を攻撃したところで抑止できるのか?」と問題提起されている。Preparing for the future of combat casualty careによれば、仮想敵国であるロシア、中国、北朝鮮、イランの長距離精密ミサイルは想像以上に高性能であり、発射されれば甚大な被害が及ぶことは周知であり、しかも100%の迎撃は困難とされている。従って、我国が敵基地攻撃能力を持ったとしても実際にミサイルが発射されれば「抑止」することは困難であり、「抑止」を求めて敵基地攻撃能力を整備しても十分な効果は得られないのは当然である。
さらに敵基地攻撃能力を持てば敵のミサイル攻撃対象目標になることは周知である。敵のミサイルは一旦発射されればその破壊力の結果、敵の攻撃の対象となる敵基地攻撃能力を持つ基地周辺は人・物・制度・組織・機関などが著しい破壊を受け、機能が低下し、作業が制限された状況、すなわち、 Preparing for the future of combat casualty careに記載されている CDO( contested, degraded, or operationally limited )環境に陥る。被害が甚大広範であるため反撃体制を整えるためにはその地域社会全体の対応能力の向上が必要である。そのためには、situation awareness(状況評価)が重要であり、かつ、その概略をその地域に説明し(防衛上実害のない範囲で)、協力を仰がねならない。このような観点から、敵基地攻撃能力を持つことに賛同する人達の説明が著しく不足しているため、国民の不安が払しょくされないままである。
Preparing for the future of combat casualty careによれば、米国本土から遠方の治療提供や治療やサプライを促進するための同盟国との安全協定を結ぶと同時に、母国に近い脅威について考える必要がある。長距離精密ミサイル攻撃から米国本土を守るために重要なネットワークは北極・亜北極に位置する基地の集合が枢軸である。米国国防省・国家安全保障省は祖国防衛の主要作戦を維持するため北極の作戦の重要性と持続性に大きな注意を払っている。ロシアはこの地域にたくさんの軍事施設を持っている。一方、米国はアラスカ、グリーンランドに数か所の基地を持ち、同盟国のカナダ、デンマーク、アイスランド、ノルウェイ、スェーデン、フィンランドが北極の作戦支援を行っている。 医療的にも 、北極は気温差、積雪量、乾燥、日照時間などにより、凍傷、脱水、局所的疾病、高山病に対する適切な訓練も必要とされている。以上のように、本書では米国本土防衛のための北極圏の重要性が論じられてきているが、南極経由のミサイル防衛は論じられていない。