ロシアのウクライナ侵攻において、戦傷医学の観点から何を学ぶか?

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 今回のロシアのウクライナ侵攻から、軍事的な側面からは戦術・戦略も含め、多くのことを学んでいると思われ、良い悪いはともかく、これらは今後の戦闘の在り方をはじめ、多くの知見を残しているのは事実である。戦術・戦略が異なれば、戦傷の種類、重症度なども異なってきて、治療方法もそれに従って進歩していくことが、望まれる。

 戦傷医療に関しては、施設前医療処置として、TCCC(tactical combat casualty care)ガイドラインが推奨されていることは周知である。治療の5要素の頭文字をとったMARCH(massive hemorrhage control:大量出血の止血、airway management:気道確保、respiratory management:呼吸管理、circulation:循環、hypothermia prevention:低体温予防)が有名である。

 このMARCHに関して、評価した論文がある。『一般人と軍の状況下でTCCCを評価する:全体的なレビュー、知識ギャップ分析と将来の研究の推奨(Straus R, Menchetti I, Perrier L et al : evaluating the tactical combat casualty care principles in civilian and military settings : systemic review, knowledge gap analysis and recommendations for future research. Trauma Surg Acute care Open 2012 ; 6 :1-10)』この論文は、13,857の論文と抄録から重複を除いた11,262の論文の中からフルテキスト528を選択し調査し、MARCHの有効性を評価した(62,352症例、年齢:33.6±7.8、性差:85.9%男性、ISS:28.4±17.1)

 この中で、特に著者らが強調したことは、「TCCCガイドラインは全ての病院前・戦場に適用するために発展してきたが、MARCH処置は寒冷環境で実践するには欠点がある。どんなMARCHでも極端な寒冷環境においても有効であることを保証することが重要である。低体温予防は強力であるが、寒冷環境で調査された研究はほとんど見当たらず、低体温予防を調査した2つの研究は寒冷環境では行われていない。」ということである。その上で、重要な疑問を挙げている。①低体温の生理学的変化は大量出血にどのような強い影響を与えるか?、②呼吸介助に影響を与える氷点下以下の温度では結露が凍りますか?、 ③クリスタロイドや血液製剤は、輸液レートや温度が何度で凍りますか?、の3点である。

 今回のロシアのウクライナ侵攻は、まさに低体温との勝負であり、戦傷医学の側面からは、この論文の疑問に答えられる可能性を持っている。我国も敵地攻撃力云々の銀二的な側面だけではなく、戦う兵士の安全安心のためにも戦傷医療の観点からデータ集積・解析・検討が望まれる。

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