The Future of Combat casualty Care ; Is the Military Health care Ready ? 『戦闘時の負傷者治療:軍の医療体制は未来の戦いに備えられているか?』         (www.rand.org ; RAND_RBA713-1)

 2018年の米国防戦略では、対テロ戦から国家間の大規模戦闘への備えが重視されるようになった。中国やロシアなどの潜在的な敵国は、長距離・高精度の兵器を保有しており、米軍に多数の負傷者を出す可能性がある。それらに備えるために、主な課題と提言をまとめた。

1.前線での治療能力の強化
 負傷者が急増する可能性に備え、野戦病院のベッド数や手術室の拡充が必要。
 ドローンによる物資補給や、大量外傷に対応したトリアージ戦略の導入が有効。
2.医療資材の事前配置
 冷戦時代のように、必要な医療物資を戦域近くに事前配置することで迅速な対応が可能に。
 保管コストや輸送手段の最適化が課題。
3.医療ロジスティクスの強化  素早く物資を補充し、医療機器の保守を行う体制が必要。
 民間や国際パートナーとの協力も視野に入れるべき。
4.本土での対応力の向上
 北極圏など過酷な環境での医療支援体制の整備。
 大量の負傷者が本土に戻る事態に備え、医療施設の拡充や新たな訓練・設備投資が必要。
5.医療産業基盤の強靭化  緊急時に必要な医薬品の供給が追いつかない可能性あり。
 生産能力の拡大、供給元の多様化、品質管理の強化が求められる。

 結論として、未来の戦闘環境では、単一の対策では不十分である。複数の施策を組み合わせた「ポートフォリオ型」の対応が必要であり、MHS(軍医療システム)は柔軟かつ持続可能な体制を構築することが求められている。

Modern military medicine : Focus on transfusion practices in forward deployed environments.(前線展開環境における輸血実践の最新動向)N.Frescaline , F. Deassus , M.Chueca , J.-J. lateillade

 防衛省でも輸血に関する議論が展開されているが、フランスの状況をまとめた論文である。

 世界の年間死亡の約8%が外傷によるものであり、戦闘環境においては、出血が最も予防可能な死亡原因とされている。そのため、早期輸血とバランスの取れた蘇生法(血液成分の適正比率での補充)が重要であると強調されている。

 フランス軍医療部隊・輸血センターの輸血ドクトリンは、①ドナー選定・採血・スクリーニング・安全管理・追跡・監視・教育訓練までを体系化している、②「戦闘現場(負傷直後)から最終治療施設まで」の全過程をカバーする前線輸血体制を構築している、③特徴的なのが「ゴールデンアワー・ボックス(Golden Hour Box, GHB)」という専用輸送容器。温度監視機能付きで、最前線まで血液を安全に輸送できるよう設計されている、ことである。優先される血液製剤と特徴を以下の表にまとめた。

    優先度製剤名(和名)主要特徴(短評)
      1冷蔵・低力価O型全血(cs-LTOWB)O型(Rh陽性)男性ドナー、抗A/B低力価(<1:64)を選別し「事実上の万能全血」として運用。+2〜+6℃で最大21日保存。前線での即時輸血に最優先。(cimm-icmm.org)
      2赤血球(RBC)+フランス製凍結乾燥血漿(FLyP)RBCは貧血改善、FLyPはABO不問・長期常温保存・短時間で再構成可能。前線・遠隔地での実用性が高い。(cimm-icmm.org)
      3温かい新鮮全血(wFWB)コンポーネントが使えない場合の代替。感染スクリーニング・安全性管理は重要。(cimm-icmm.org)
  補足(課題)血小板製剤血小板は保存期間が短く前線での安定供給が困難。今後の課題。(cimm-icmm.org)

 前線での運用課題は、広大な作戦地域(例:サヘル・サハラ地帯)では、搬送時間の長さが大きな問題となり、「負傷点に近い場所での輸血実施」が重視されている。主な課題として、①電源・冷蔵設備の確保、②サプライチェーンの脆弱性(特にウクライナ紛争などで顕著)が挙げられ、提案される解決策として、①事前ドナー登録・スクリーニング、②携帯型冷蔵・加温装置、③小規模分散型血液デポの設置、④ドローンによる輸送、などが挙げられる。

 考察・示唆される事柄としては、①軍事・人道医療の現場では、「全血優先 → 成分療法補完」という流れに変化している。中でも、凍結乾燥血漿(FLyP)は、資源の乏しい環境で極めて有効、②O型・男性・低力価ドナーを選ぶことで「安全な万能全血」の運用を可能にしている、③「現場で輸血できる体制(GHB導入)」は、民間救急(例:離島や山間部の外傷治療)にも応用可能である、が挙げられる。ただし、感染リスク、供給網の維持、長期保存技術など課題も多い。本論文は軍事向けの研究だが、災害医療・遠隔医療への応用可能性も示唆している。今後の展望として、①前線環境での血小板製剤の安定供給、②長期保存が可能な新しい血液製剤の開発の必要性、③医療従事者の輸血教育・訓練強化の重要性の強調、が挙げられる。

 最後に、本論文の他に、Joint Trauma System Clinical Practice Guideline ( JTS CPG) ; Prehospital Blood transfusion、Dried blood plasma project to help save soldier’s lives launches、Japan to Make Urgent Care Blood Products for Self-Defense=Forcesを比較して、主要国の前線における輸血方針を表にまとめたので、参考にされたい。

優先製剤・方針(概略)前線配備の代表的取組 / ガイドライン主要特徴・備考
  フランスcs-LTOWB 優先 → RBC + FLyP(論文のドクトリン)。GHBで前線輸送。(cimm-icmm.org)French Armed Forces Blood Transfusion Centre の実運用報告(Barkhane等)。(cimm-icmm.org)cs-LTOWB(+2〜+6℃ 21日)、FLyPは室温保存可。前線での早期輸血を制度化。(cimm-icmm.org)
  米国(US)前線・搬送中の「早期輸血(whole blood/RBC+plasma)」を強調。JTSガイドラインやType A / Whole Bloodガイドが存在。(jts.health.mil)JTS(Joint Trauma System)のPrehospital/Enroute CPG、各種Prehospital Blood initiatives(PHBTIC)等。(jts.health.mil)米軍も現場全血(Type A/0)や前病院段階での輸血を導入・標準化中。カルシウム投与やクリスタロイド最小化など運用細則あり。(jts.health.mil)
  英国(UK)乾燥血漿(freeze-dried / spray-dried plasma)導入を推進。前線でのプラズマ早期投与を重視。(nhsbt.nhs.uk)NHSBT と国防省の「Blood Far Forward」プログラム(dried plasma導入)、DMSの現場導入事例。(nhsbt.nhs.uk)Dried plasmaにより「30分以内のプラズマ供給」を目標。前線で常温保管・迅速投与が可能。(nhsbt.nhs.uk)
  日本(自衛隊)新たに全血製剤の自製(計画・検討)や前線訓練の強化が報道ベースで進行中。実証・導入段階。(JAPAN Forward)自衛隊によるフィールド訓練映像や防衛省の製剤開発計画の報道(2024年〜)。詳細ガイドラインの公開は限定的。(JAPAN Forward)日本は自国生産や供給網整備を検討中。血小板や前線用製剤の運用は課題が残る。(JAPAN Forward)

Exploring Military Exposures and Mental, Behavioral, and Neurologic Health Outcomes Among Post-9/11 Veterans (2025)

 これは、全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)が米退役軍人省(VA)の委託を受けて実施した、9/11以降に従軍した米国退役軍人の有害物質曝露と精神・神経・行動的健康への影響に関する包括的研究報告である。目的は、2001年以降のアフガニスタン・イラク等への派遣軍人が曝露した燃焼ピット、粉塵、燃料、排気、金属、放射線、溶剤、カビなどの環境・職業性曝露が、精神疾患・神経疾患・慢性多症候群(CM:Chronic multisymptom illness)と関連しているかを評価することである。CMIに関しては、当ブログでも2018年10 月2 日『戦争後症候群とCMI』というタイトルで取り上げたテーマである。本報告は、9/11以降の米軍従軍者における有害環境曝露と精神・神経疾患との関連を科学的に検証したものであり、特に粉塵・排気・PMなどの空気汚染曝露がPTSDやうつ病、神経変性疾患に関与する可能性を指摘している。一方で、データの制約から因果関係の確定には至っていない。今後は個人レベルの曝露履歴と多因子的要因を統合した追跡研究が求められると結論している。より詳細な個人曝露データと長期追跡研究が今後必要とされるが、以下にデータを表にまとめた。

 VAと国防総省(DoD)のデータを統合した個人曝露記録(ILER)を使用し、対象は2017~2023年にVA医療を受けた約114万人の退役軍人のうち約96万の曝露記録を用い、精神・神経疾患など16の健康アウトカムを検討したものである。曝露と疾患との「関連の可能性(possible risk-conferring relationship)」が認められたのは以下の組み合わせであった。

疾患関連が示唆された曝露
調整障害粉塵・PM、排気、焼却炉排出物
うつ病PM
PTSD粉塵・PM、排気、焼却炉排出物、溶剤
統合失調症・精神病排気、PM
睡眠障害PM
物質使用障害(SUD)粉塵・PM、排気、焼却炉排出物
自殺未遂・自傷行為粉塵・PM、排気、焼却炉排出物
ALS排気、溶剤
認知症PM
多発性硬化症溶剤
パーキンソン病粉塵・PM、排気
慢性多症候群(CMI)粉塵・PM

 結論としては、135通りの曝露×疾患のうち24組で関連の可能性が認められた。現時点では決定的な因果関係は証明されていないが、粒子状物質(PM)・排気・溶剤等が精神・神経疾患リスクを高める可能性が示唆された。

Defense Software for a Contested Future: Agility, Assurance, and Incentives;2025, National Academies

 国防高等研究計画局(DARPA)で、目的は「大規模・統合的ソフトウェアシステムの俊敏性(Agility)と信頼性(Assurance)を高める方法」を提示するために、米国防総省(DoD)におけるソフトウェア開発と調達の改善策を検討した報告書である。

 DoDのほぼすべての兵器・指揮・情報システムはソフトウェアに依存している。しかし、開発遅延・要件不適合・脆弱性・改修の困難さなどが長年の課題であり、商用ソフトウェア分野(COTS)が導入しているアジャイル開発や形式的検証(Formal Verification)などの先進手法を取り入れる必要がある。

 この報告書は以下の3つのテーマに基づき整理されており、主要な提言をまとめて表にした。結論としては、「俊敏性(Agility)」「信頼性(Assurance)」「インセンティブ(Incentives)」は相互に依存しており、どれか一つだけを改善しても十分ではなく、文化・契約・技術・人材のすべてを変革する必要がある。報告書は、DoDが商用ソフトウェア開発のベストプラクティスを採り入れ、「継続的に進化し、安全で柔軟な防衛システム」を構築するための技術的・制度的ロードマップを提示している。

分野内容改善の方向
Agility(俊敏性)ソフトウェアを迅速・柔軟に開発・更新できる能力アジャイル開発、継続的統合(CI/CD)、モデルベース開発、DevSecOpsの導入
Assurance(信頼性)ソフトウェアの機能・セキュリティの保証形式手法の活用、メモリ安全言語の使用、SSDF(NISTの安全開発基準)の適用
Incentives(インセンティブ)開発者・組織が高品質ソフトを作る動機付け柔軟な契約(OTA)、開発環境整備、長期サポート契約、優秀人材の確保

Advanced Battle Management System: Needs, Progress, Challenges, and Opportunities Facing the Department of the Air Force

 自衛隊でも陸・海・空の統合が勧められているが、米国国防総省(DoD)は、Joint All-Domain Command and Control(JADC2) 構想を進めており、陸・海・空・宇宙・サイバーすべての領域での情報・指揮統制の統合を目指していて、その中で、空軍の貢献部分が「Advanced Battle Management System(ABMS)」 である。

 ABMSは、センサーから射撃までの「情報収集・分析・意思決定・行動(sensor-to-shooter)」を高速・自動化するためのシステム・オブ・システムズ(複合統合システム)として構想されており、ABMSは、将来的に米空軍およびDoD全体のデジタル指揮統制の中核を担う重要構想であるが、現段階ではまだ定義・統合・実装が発展途上である。成功の鍵は、技術革新だけでなく、ガバナンスと文化変革の両輪にあると結論づけている。

 主な理由として、①ABMSは非伝統的な取得(アジャイル開発)手法で進められており、まだ明確な要求仕様・性能目標・スケジュールが不足、②初期段階では「実証実験(on-ramp)」が中心で、実運用レベルの統合・性能評価は未達成である、③2021年以降、開発主担当が「空軍チーフアーキテクト室」から「Rapid Capabilities Office(RCO)」に移管され、実運用化フェーズへ移行中である、④統合指揮権限が不明確で、各軍種が独自にシステムを構築しており、相互運用性(interoperability)にリスクがある、が挙げられる。

Potential Environmental Effects ofNuclear War (2025)

http://nap.nationalacademies.org/27515

 核戦争の地球環境へ及ぼす影響について、まとめた論文である。ソ連・ウクライナ戦争において、時々プーチン大統領が戦術核兵の使用を仄めかしている昨今、大いに参考になるので、重要なポイントをまとめた。

①環境破壊の深刻さ
・爆風、放射線、火災などにより、人命だけではなく、大気・水・土壌といった自然環境にも深刻な影響をもたらす
・放射能汚染により水は飲めず、土地は耕作不能になる

②火災と煙による気候への影響
・大規模な都市火災で発生した煙は成層圏まで達し、長期間に渡って太陽光を遮る
・結果として、地球の気温が低下し、光合成や農業に大きな影響が出る(核の冬)

③生態系への影響
・植物や動物の生物的多様性が損なわれ、食物連鎖に著しい障害が生じる
・陸生動物、海洋動物の生態系に対して、気温・降水・光の変化が影響を及ぼす

④社会・経済への影響
・食料生産の激減による飢餓
・癌や急性放射線障害による健康被害
・経済活動、流通、医療などの社会基盤の崩壊
・世界経済や貿易ネットワークの大混乱

⑤現代のリスク
・核保有国が増え、局地戦でも地球環境の被害を起こす可能性がある
・核戦争の影響は数週間から数十年に渡って多面的かつ長期的に及ぶ


 最新の地球システムモデルやスーパーコンピューターを駆使して、より正確な予測が可能になっているが、データの不確実性や未解決の問題もある。しかしながら、「核戦争は気候・環境・生態系・人間社会に壊滅的かつ不可逆的な影響をもたらし、国家・国際機関は予防と政策決定のための科学的根拠として本論文の研究を活用すべきである」と結論している。

「また、また、落ちた」が素直な印象

  今回の2025年5月14日の航空自衛隊のT4練習機墜落に際しては、2024年4月21本ブログで『「また、落ちた」が素直な印象」』というコメントを書いたが、『「また、また落ちた」が素直な印象』と言える。私の知る限りでも、2017年海自のヘリコプター、2019年空自のF35戦闘機、2022年空自のF15戦闘機、2023年陸自のヘリコプター、2024年海自のヘリコプター、と毎年のように墜落事故が発生してきた。その度に、今まで何回か、自衛隊の墜落に際して、事後調査が不十分過ぎると指摘してきたが、今回も救出救助の作業に隠れて、肝心の事故調査に関する防衛省の戦略的な見解が示されておらず、「ただ、遺憾」という聞き飽きたフレーズのみである。

  2025年5月17日毎日新聞の社説では、「自衛隊機の墜落事故 多発の背景解明が重要だ」というタイトルで「事故原因を究明し、再発防止に向けた対策を徹底しなければならない。・・(中略)・・政府は27年度までに防衛費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げる方針だ。しかし、装備の拡充に偏り、隊員の命を守る取り組みが二の次になるようでは本末転倒である・・・」という記事を掲げ、防衛省の詳細な事故調査の必要性を指摘している。

 自衛隊が我国の防衛を担うという性格上、ある程度の秘匿性は許されていたとしても、非戦時下の航空機事故に関しては、民間機同様、外部評価に耐え得るような事故調査報告書を開示すべきである。事故が機体などハード面にあるのか、飛行を管理する管理システムなどのソフト面に問題があるのか、人為的なミス、すなわち、パイロットなど機体を操作する人間に問題があるのか、日頃の機体の整備不良などによるのか、など早急に精密かつ正確な解析検討を行い、開示すべきであろう。戦時という困難な状況下で飛行する自衛隊機が、平時に頻回に墜落する現状では、日本の空の安全は守れないであろう。

Assessing the Feasibility of the Strategic Long Range Cannon: Unclassified Summary(2022):実現可能性の評価:戦略長距離砲:非公開の概要(http://nap.nationalacademies.org/26129)

 中国とロシアの軍事的脅威に対抗するため、⽶陸軍は⻑距離極超音速兵器、中距離ミサイル、短距離砲の開発を積極的に進めている。20年間の対反乱作戦で経験を積み形成された陸軍は、「機動的な⻑距離射撃、維持、防護、敵の接近阻止/領域拒否(A2/AD:Anti-Access/Area Denial)層内で機動できる部隊」を提供することで、「統合部隊に、将来の決定的優位性と次の戦いに勝つために必要な優位性を提供するために必要な最先端技術の範囲、速度、および融合を提供する」変⾰の取り組みを⾏っている。その結果、陸軍は、極超音速弾を1,000マイル発射する戦略⻑距離砲(SLRC:strategic long range cannon )を製造するための⼤規模な科学技術(S&T)開発プログラムに取り組んでいる。その⽬標は、2025会計年度に能力を実証することであり、その後、正式なプログラムを開始するかどうかを決定する。この地対地能力は、極超音速弾と戦略砲という2つの補完的なシステムに基づいている。このプラットフォームは、マルチドメイン作戦(MDO)の戦略的な距離で集中砲火を放つことができる兵器、原動機とトレーラー、弾丸、および推進薬から構成されている。戦略⻑距離砲の実現可能性評価委員会は、このデモンストレーターが陸軍のマルチドメイン作戦と統合全領域作戦 (JADO)
の概念における重⼤なギャップを埋めることができると考えており、陸軍が SLRC の開発を継続することを推奨している。成熟すべき技術分野に必要な投資を⾏えば、SLRC は能力のギャップを埋めることができる。

 陸軍の作戦概念であるマルチドメイン作戦は、「階層化されたスタンドオフの問題を解決するために⼀連の解決策を提案し」、特に「敵の⻑距離システムを破壊し、敵の中距離システムの無力化を開始するためにクロスドメイン射撃を採用することにより、敵の接近阻止および領域拒否システムを突破して解体するためにすべての戦闘領域を迅速かつ継続的に統合する。」その結果、陸軍は⻑距離極超音速兵器、中距離ミサイル、および短距離砲を積極的に追求している。

 この報告書では、今後のシステムに関連するいくつかの課題を取り上げ、幾つかの提⾔を⾏っているので、詳細は論文を読んで頂きたい。



Powering the U.S. Army of the Future(2021)Press https://nap.nationalacademies.org/catalog/26052/powering-the-us-army-of-the-future

 マルチドメイン戦略において、あらゆる敵に対して競争上の優位性を得るため、陸・海・空・宇宙の戦場で最大の運用上の優位性をもたらす方法によりエネルギーを使用する最高の資源が協調的かつ戦略的に結集されることが第一の目標であるとした点からエネルギーを分析した論文である。

 序文には考慮事項として如何が挙げられている。

・必要なエネルギーを、必要な場所と時間に、必要な人に供給する。兵士が弾薬、食料、水を使い果たすことを決して望まないように、十分な電力とエネルギーは成功に不可欠であり、兵士の命が救われる。

・ 増大する電力需要を満たす必要性を認識する。

・通信、情報処理、人工知能の改善に基づいて、すべての兵士の戦場の状況認識を強化する。

・補給中に命を救うために燃料輸送の必要性を減らす。

・下車した兵士が運ぶ重量を減らす。

・すべての種類の車両(有人および無人の地上および飛行資産)の重量を軽減する。

・陸軍旅団の自立能力を 3 日から 7 日に増加する。

・下車した兵士、車両、および前方作戦基地にさまざまな地形での迅速な移動を提供する。これには、前方作戦基地の迅速なセットアップと解体時間を含む。

・燃料補給、再充電、または新しい電源の提供に必要な時間を維持または短縮する。

・世界中で利用可能なより広範なリソース(同盟国および敵国が使用する燃料リソース)を活用する能力を保持する。

・特に独自の技術を持つ敵の手に渡ったエネルギーリソースを無効化またはロックアウトする能力を維持する。

・軍事目標を損なうことなく、可能な限り環境に優しい技術を採用する。

・分散型リモート センサーの場合はミリワット。

・小型無人航空機 (UAV) と兵士の装備の場合はワット。

・レーザーなどの新しい指向性エネルギー兵器の場合はキロワット。

・ 地上戦闘車両、新しい FVL (Future Vertical Lift) ヘリコプター/VTOL (垂直離着陸) 航空機、および前方作戦基地の場合はメガワット以上。

 論文では、戦場に持ち込まれる主な電力およびエネルギー源となるべき燃料として、ジェット推進剤8(JP8)、ディーゼル、バイオディーゼル3(再生可能燃料)を挙げ、さらに水素も取り上げ議論している。また、内燃機関(ICE)、ガスタービンエンジン、発電機、パワーエレクトロニクス、バッテリーストレージを使用したハイブリッドテクノロジー、はEVの再充電時間や航続距離の制約なしに現場での電化の利点の多くを提供でき、特に重要なのはハイブリッドが提供する最大20パーセントの燃費向上として多くの有望な取り組みを開始していることを紹介している。

 軍に様々な分野で急速に進歩している技術や装備を実際に運用するためのエネルギーを産学共同で前向きに議論が展開されている米国の状況に鑑みれば、我国が資源小国である現実に立脚したエネルギーの包括的議論や分析が必要であり、このような分析検討がなければ、自衛隊の装備は「宝の持ち腐れ」と言わざるを得ない。

Necessary DoD range capabilities to ensure operational supriority of U.S. Defense System : Testing for the future fight(2021):米国の作戦上の優位性を確保するために必要な国防総省の射程能力;防衛システム;将来の戦闘に向けたテスト

 この論文は以下の序文から始まる。『我が国の兵士は、最も過酷な条件下で、決意と能⼒のある敵と戦うために、武器システムを装備して戦闘に臨む。彼らは当然、これらの武器が、彼らが直面する戦場を象徴する現実的な脅威に対して、運用上重要な条件下でテストされ、その有効性が証明されていることを期待している。国防総省 (DoD) のテストおよび訓練場事業は、この不可欠な開発および運用テストを可能にしており、国家安全保障のためのこれらの重要なリソースは、何千人もの軍人、公務員、防衛請負業者、国立研究所および連邦政府資⾦による研究開発センターの代表者の献⾝的な貢献にかかっている。彼らは、この場事業の中核であり、その仕事の重要性から一般には目に⾒えず、知られていない、極めて厳しい条件下で働いている。DoD の場事業の将来的な存続可能性は、テクノロジーの劇的な変化、敵の軍事能⼒の急速な進歩、および統合全領域作戦環境でキル チェーンを閉鎖するために⽶国が採用する進化するアプローチに対処することにかかっている。』わが国では、このような観点からの分析が行われているのであろうか?

 この論文は3つの基本テーマを強調して論議している。『①将来の戦闘では、統合全領域作戦 (JADO:Joint All Domain perations) 環境での連結キル チェーンが求められる。国防総省がシステムを設計、指定、開発、テストし、この新しい現実に配備されたときに⾮常に効果的であることを確認することが重要である。しかし、単一の領域での個々の兵器システムのテストに最適化されたが、陸、海、空、宇宙、サイバー空間を含むすべての戦闘領域にまたがる機械速度の戦争で運用される将来の統合兵器システムをテストするには不十分である。②デジタル技術は、テストの性質、実践、インフラストラクチャを劇的に変化させている。今⽇および将来の兵器システムは、基本的にデータとソフトウェアによって実現されており、国防総省のテスト場も例外ではない。防衛システム全体で⾃律性、人工知能 (AI)、機械学習の重要性が急速に高まっているため、OT(operational testing) に新たな課題が⽣じている。さらに、デジタル ツインと高性能モデリングおよびシミュレーション (M&S:modeling and simulation) の登場により、新しいテスト方法が可能になっていますが、新しいドメインと運用上の制約の組み合わせにより、特定のアプリケーションでは仮想テストが唯一の実用的なアプローチになりつつある。③現場へのスピードは今⽇の作戦上の重要性の尺度であり、それは常に変化する目標
である。多くのデジタル、ソフトウェア、通信ベースの技術の世界的な普及により、⽶国の敵は迅速かつ継続的に⽶国の戦闘上の優位性を打ち消すために設計された新世代の兵器を配備している。同時に、新しい兵器システムは、これまで実戦投⼊されたことのない技術を採用しており、これもムーアの法則によって可能になったペースで進化している。使用可能な兵器システムはすぐに実戦投⼊されるが、継続的なテストと改良が必要である。 本論文は、これらのテーマに関連する課題に対処するために、5 つの⼤まかなカテゴリに分類される結論と推奨事項を作成している。』ウクライナ対ロシアの戦闘では、ドローンやスターリンクを駆使した情報者構築など従来顧みられなかった戦術・戦略が出現してきたが、専守防衛という立場の自衛隊であっても、優位性を確保するには新たな小銃という小手先の枝葉末節の戦術ではなくこのような退却間からみた分析が必要であろう。