幹部自衛官の教育は自衛隊を軍隊とする憲法改正に十分なのか?

 2023年6月30日集英社オンラインの『自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件…改革急務の危機に瀕する防衛大学校の歪んだ教育』を読んだ。防衛大学校で教鞭をとる等松春夫教授の論考『危機に瀕する防衛大学校の教育』についてのインタビュー記事である。

 等松教授の指摘に関しては、単なる内部告発としてとらえるのではなく、幹部自衛官の行末を心底案じた上での教育に対する熱意が表れていると思われるので、ぜひ全文を読んで頂きたい。

 気になるのは、『本校教官の意見発表に対する防衛大学校長の所感』である。基本的所感の中で、『・・・もとより教授の防大をよくしたいう気持ちについて異を唱えるつもりはありませんが、全体として極めて遺憾な内容であると感じています。論考の題名は「危機に瀕する防衛大学校の教育」となっていますが、改善の余地はおおいにあるとしても「危機に瀕する」という表現には違和感を覚えます。また、議論の少なくとも一部は、事実ではなく推測に基づいていると感じられます。それによって子の論考は本校の名誉を大いに傷つけたと判断しています。具体的あるは建設的な提言がないのも残念です』と言っています。しかしながら、等松教授は現状の体制では防大の教育改革は内部からの声では困難・不可能と判断し、外圧による変化しかないとの思いから論考を書いたことを語っています。校長は防大の教育の最高責任者として、苦渋の選択で論考を発表した等松教授の意志を高く評価し、真に改革をしようという方向に向うべきと思います。所感が面子や体裁を作ろうという姿勢に見えてしまっていることは極めて遺憾と言わざるを得ません。

露軍の戦傷医療は万全か?

 2023年4月28日「ロシア兵の戦死者の半数は適切な応急処置、治療がなされなかったせい」とう記事を読んだ。その中で、『多くのロシア兵が戦場で亡くなっていますが、アルテム・カトゥリンによれば、その半数以上は即死や致命傷によるものではなく、適切な応急処置と治療を受ければ命は助かっており、適切な止血を行っていれば、手足を切断することも無かったと述べています。それはつまり、未熟な兵と応急処置に対する訓練不足、処置のためファースト・エイドキットの不足と、負傷者の搬送体制が無かったことが理由として挙げられます。Oxford Academicの発表によると事故、戦場での負傷に関わらず、外傷性による死因の35~40%が出血死によるものです。負傷した際は素早い止血と早急な輸血が生死を分けます。しかし、ロシア兵の応急処置キットは古く、ソビエト時代に作られたと思われる包帯と簡易的な止血バンドといった最低限の物しか付与されておらず、多くの兵が現代的な救急キットを持ち合わせていないことは確認されています。また、動員兵が招集された際、訓練教官が集まった兵に「銃で撃たれたら銃創にタンポンを詰めて止血しろ」と言っている様子が撮影されており、上級兵でさえも応急処置の知識、訓練が不足していることが伺えます。例え止血できたとしても、輸血は必要であり、長時間止血すれば手足が壊死してしまうので、早急に後方に搬送し、治療が必要です。しかし、ロシア軍はこの搬送体制も整備されていないとされています。侵攻する側のロシア軍ではありますが、ウクライナとは陸続きであり、現在は国境に近い東部で戦闘を行っており、決して兵站ルートが長いわけではありませんが、拠点から50km離れると補給が困窮すると言われています。』そこで、露軍の戦傷医療について、文献上の考察をしてみた。 

 ロシアにも戦傷の研究がないわけではない。ロシアのMirzeabassov等は、防弾服着用時の防弾背面鈍的胸部外傷(Behind Armour Blunt Trauma)の疫学調査を行っている(Mirzeabassov, T. , et. al : Further investigataion of modelling for bulletproof vest, Personel Armor Safety Symposium, Colchester, UK, 2000)。ソビエトのアフガン侵攻時、1.25mmと6.5mmのチタニウム板を用いた防弾服を着用し胸部を撃たれた17人の軍人を対象とした。武器は7.71mmEnfieldもしくは7.62mmAKM。胸部外傷のレベルとしてレベルⅠ(皮膚の擦過傷、点状出血、皮下血種、局所の血胸)からⅣ(内臓破裂・挫傷、脊椎損傷)、交戦性と胸部外傷との関係をレベルⅠ(1から3分交戦不可能、15分間の交戦制限、24時間以内に回復)からⅣ(即死、合併症死、生存者の戦意喪失)に分類した。

 しかし、この疫学的データを理解する時に、アフガニスタンにおける戦争からも検討する必要がある。つまり、アフガニスタンでは、90%以上の負傷者が航空後送されたが、たった4%が中央軍病院に6時間以内に搬送されたのみであった。すなわち、病院到着前に死亡していたことになる。重傷は遅れた治療により致命的になる。戦傷治療はソビエトと米欧では著しく異なると指摘している。

 以上から、露軍の戦傷医療が現場における処置だけではなく、後送も含めた治療戦略、すなわち、全軍的なTCCC(Tactical Combat Casualty Care)がないと推測される。

 我国も今回のロシアのウクライナ侵攻に関して、防弾チョッキを提供したとの報道があった。ここで考えるべきことは、この防弾チョッキにおけるBABT発生に関する資料提供も行われたか否かが重要である。防弾チョッキは万能ではなく、性能の限界を知って初めて有効になる。

G7の視点は偏っていないか?

 日本維新の会の鈴木宗男参院議員は21日、自らのブログで、「G7で『一にも二にも停戦だ。お互い銃を置け。我々が仲介に入り両方の話を聞く』という声が出なかったことに失望する」と書き込んだ、という記事を見た。私自身はこの意見は物凄くまともな意見であり、高く評価されるべきと考える。世界全体を俯瞰すると称するG7であるなら、両国のメンツなど様々な障壁を超える知恵を出し合い、終戦・停戦を議論すべきと考える。今回のG7では、一方的にウクライナのゼレンスキー大統領だけを招待し、当事者のロシアのプーチン大統領を招待しないこと自体、「ロシアが極悪非道でウクライナが正義」という西欧社会の一方的視点からの発想と思われるが、我国もこのような偏った視点でよいのであろうか?ウクライナに対する現在の支援の大部分は結局戦闘維持に使われ、それは多くの死傷者を生み、両国国民の犠牲を拡大するだけである。支援は本来生産的価値を生むものを対象とすべきであり、現在のウクライナ支援は何ら生産的価値を生まず、破壊を生むだけである。国家や政治家のプライドや理念によって市民を犠牲にしてはいけないという当たり前のことがロシアとウクライナの両国にかけていると思われる。

 今回のロシアのウクライナ侵攻は「大義も正義もない戦争」と一刀両断されるが、それはロシアの視点ではなく、評論家や発言者自身の視点である。発言者自身から見て「大義も正義もない」ことかもしれないが、ロシアにとっては「大義も正義もある」ことなのである。確かに今回のロシアの進行は身勝手で決して正しいとは思っていないが、ロシアにとっては大義も正義もあったこそ、侵攻したのである。このようなロシアの思想背景や状況を考え、ロシアとウクライナの両者の意見を聞くことが必要であると思われる。この相互理解への探求精神が世界全体の平和に必要不可欠なものである。

 2022年4月7日当ブログでも『ロシアのウクライナ侵攻における一方的な報道で『ロシアが極悪非道でウクライナが正義』というステレオタイプに陥っていないか?』というタイトルで、精神科の和田秀樹先生の「「プーチン=極悪非道、ゼレンスキー=正義の味方」そんな安直な思考が見落とす重要事実」という記事を紹介した。残念ながら、今回の鈴木議員もロシア寄りというレッテルを張られ、鈴木議員の主張はまともに論議されることもない我国の現状はあまりにも世界の半分に満たない西欧社会の価値観に迎合し過ぎている危惧があるのは私だけであろうか?

 このブログを書いている際中に、G7の主体国であるブラジルのルナ大統領の発言の記事の中に、ルナ大統領は「ウクライナとロシアの戦争のためにきたわけではない」として、その議論は「国連がやるべきだ」と批判した」とある。まさにその通りであり、この発言こそ、議長国である日本が発すべき言葉であったと思われる。

要人警護に関しては、もはや警察内部だけではなく、警察外部も含む抜本的改革が必要と思われる

 またまた、要人に対するテロ行為が行われた。安倍元総理の襲撃事件の経験は生かされていたのであろうか?、岸田総理の警護の仕方や民間人の勇気ある行動による犯人の確保など、はなはだ多くの疑問が残る警護と言わざるを得ないと思われた。幸い負傷者がいないから、「結果よければ全て良し」とは簡単に済ませられない、由々しき問題と思われる。

 週刊女性PRIMの『岸田首相襲撃に専門家「一般人が取り押さえた時点で警備はゼロ点」警察の落ち度と“安倍元首相のトラウマ”』ではいくつかの課題を分析している。その中に『安倍元首相の事件をきっかけに警備体制は見直された。警察庁が警備計画を制作し、和歌山県警と密に連携していたはずだが、』という一文があったが、私にはそうとは思えない。安倍元総理の襲撃事件の事後検証自体が犯人の動機を初めとして疑惑の銃弾の行方なども含めて、余りにも警察の密室的で短絡過ぎた結果の延長戦上に、今回の要人警護の不備があるものと思う方が妥当であると考えるべきであろう。広島サミットの要人警護の訓練を見ていても、あまりにも緊迫感がなく、非実践的であると思っている方は多いと思われる。

 今回の件を警察内部の閉鎖的な分析検討だけではなく、警察外部の専門家・知識人を交えた実践的な要人警護を目指さない限り、不幸な事件が今後も継続する可能性は否定できない。

今度こそ客観的評価に耐え得る事後検証が望まれる

 2023年4月6日陸上自衛隊のUH60Aヘリコプターが消息を絶ったという報道があった。これに関して目撃情報消失の2分前には管制塔と無線連絡を交わしていたという情報考えられる原因を推測するなどの報道があった。

 自衛隊の事故に関しては、当ブログでも2022年2月2日空自、2021年5月8日海自などを取り上げてきた。事故を減らすには客観的な、かつ、一般の評価に耐え得る事後検証の必要性を強調してきた経緯がある。報道では、『「航空事故の原因は一般的に3つに類型が分かれる」といいます。1つは「人為的なミス」、それから「機体の不具合」、そして「鳥などとの衝突」が考えられる指摘されている』が、これらについて具体的、かつ、詳細な分析・検討がなされるべきであろう。人為的なミスであれば、パイロットの飛行時間、UH60への熟練度、身体精神的健康状態、既往症、飛行前の身体的精神的チェックなど本人の飛行熟練度の他、身体的精神的能力のチェックの詳細な分析、機体の不具合であれば、機体本来の弱点、特徴も含めた整備状況の検討、突発的な事態であれば、天候状態などの自然環境、管制塔の指示指導体制はもとより、回避処置・手段の手順の適応性、など客観的な分析・検討・評価が必要である。

 消失の2分前には無線連絡を交わしたとされ、報道では『わずか2分』という短時間に何が起こったのか?ということに論点が置かれていたし、その疑問は当然である。しかし、一方、2分間という時間に緊急連絡もできないほど自衛隊の通信伝達網は脆弱なのか?と危惧さえ感じる。戦闘になればヘリコプターが撃墜されることもあり、時間との戦いが隊員の生死を分けるはずであり、実際に自衛隊のドクトリンにも60分以内の戦傷医療開始が謳われており、わずか2分間なれどされど2分間という時間は緊急連絡に関しては十分な時間と思われる。2分間の時間の重大性が理解されていなければ、台湾有事の際に自衛隊は隊員の命を守れるか、はなはだ疑問である。

ロシアのウクライナ侵攻における兵士の能力について:未だに安定を回復するには決定的な役割を行うのは兵士である

 いろいろな報道を見聞きすると、ロシア兵とウクライナ兵の戦闘能力について、士気の優劣が戦闘能力に大きく影響しているという解釈が多いが、果たしてそれが大きな主因なのであろうか?と自分なりに勉強・検討してみた。

 そこでNational Academy Pressの「Making the soldier decisive on future battlefields(兵士を将来の戦場で決定的にすること)2013」を読んでみた。米軍はイラク、アフガン以降、兵士の教育について大きな変革をしたようである。論文の冒頭に以下の記載がまとめられている。

『米軍は兵士、水兵、航空兵、海兵隊が「公平な土壌(level playing field)」で敵と戦うべきではないと信じている。戦闘員個人は勝つために戦闘に参加する。そのためにも、M1A2戦車、F22戦闘機、シーウルフ型攻撃潜水艦のような、敵の潜在的能力に匹敵するような武器、決定的な武器を開発するために国はその技術力と産業力を駆使してきた。しかし、国は現在『持続的な紛争の時代(era of persistent conflict)』と認識される事態に従事し、そこにおいて、もっとも重要な武器は小部隊として活動する歩兵であると言われている。ベトナム、朝鮮、第二次世界大戦以上に、今日の兵士は通常の敵や不正規の敵の両方と戦う準備をしなければいけない。イラクやアフガンの結果から米国の兵士は手ごわい戦闘員である一方、その当時の一連の器材と支援は巨大な武器群によって示された圧倒的能力と同程度の能力を謳歌できなかった。未だに安定を回復するには決定的な役割を行うのは兵士である。 個々の、または小さな部隊で行動する歩兵が圧倒的能力の技術的要件を確立するには研究が必要である。歩兵を決定的な武器にするには、どのような技術的および組織的能力が必要か?変化する、不確実で、複雑な将来の環境において、それらの歩兵が決定的であり続けるためには、どのような技術が役立つか? 研究はシステム工学の歩兵や小規模部隊への適用性を調べ、同様に、兵士を決定的にすることに関連する技術分野への適用性、この分野では特に私たちが今日も犠牲者を出している(接触への移動と遭遇の可能性)が、を検討する。考慮される技術領域には、状況認識、武器、機動性、および 保護、戦場環境への適応(衣服、冷却など)、通信、 ネットワーキング、ヒューマン ダイナミクス (例: 物理的、認知的、行動的)、および後方支援 (例: 医療援助、食料、水、エネルギー)が含まれる。NRC(国家研究会議:national research council) は、これらの要件を検討するための特別研究委員会を設立する。 この委員会は:1. 歩兵が戦場で決定的な武器になるために必要な圧倒的要素を決定する。個々の兵士と小隊(分隊サイズ以下)の一部としての歩の両方を考慮する。2. 歩兵と小規模ユニットが戦場で圧倒的な能力を獲得するため最適な技術的要件を特定する。現在および将来の両方において、米軍と敵の間のバランスに影響を与える可能性のある技術と社会の傾向を考慮する。3. 新たな、あるいは増加した科学技術的投資が決定的な歩兵の能力の開発を促進するような、短期、中期、および長期の技術を特定する。 4. 将来の戦場において兵士に決定を下させる上で、そのような投資の相対的な重要性を決定する。』

 さらに、戦闘範囲の大きさと小部隊の作戦が大きく変化してきたことを機適している。

『多様な潜在的戦闘(攻撃的/防衛的)と安定を達成することにおける小さな部隊(中隊(company)以下)の役割は、時間とともにより重要になった。さらに、機械化された最初の湾岸戦争の国対国の戦闘と初期の地上戦(中央ヨーロッパでのソビエト侵攻に対する冷戦ために準備を含む)から、ゲリラとテロリストの戦術を使う国家ではない相手に戦争するという風に内容が推移するにつれて、小部隊作戦行動領域が大幅に増加してきた。例えば、2000年ごろ、旅団(brigade)連合戦闘部隊(BCT:brigade combat team)の作戦の領域は、およそ2,700平方キロメートルでした。2011年に、4回目のBCT(第10の山岳師団)は、13,000平方キロメートルが担当範囲になった。』

  以上から、今回のロシアのウクライナ侵攻は、形的には国対国の戦争で従来型であるが、個々の戦闘を見る限りは、小部隊の能力の優劣が勝敗を決しているように見える。戦闘を学問的にみた場合には、この侵攻から兵士の教育にとっては重要な課題が示されていると考えられ、台湾有事に備える意味でも内容分析は重要であると思われる。

安倍晋三元総理の死因解明は民主国家としての責任

 青山繁晴氏の『安倍晋三元首相の心臓に大きな穴、真相判明か「銃でできた穴ではない」』と題するyoutubeにおいて、いまだに死因が究明されていないことを指摘している。

 青山氏の主張の概要は、2023年1月10日東スポWEB版に記載されている。「(前略)昨年7月に安倍晋三元首相(享年67)が殺害された事件で、謎とされていた病院の説明と司法解剖の結果が食い違っていたことで、警察庁から新たな回答を引き出していたことを明かした。安倍氏の死亡直後、奈良県立医科大学の救急診療科部長で、福島英賢教授は会見で「心臓の壁に大きな穴が開いていた。たぶん弾丸による損傷」と説明していた。ところが、同大の別教授による奈良県警の司法解剖では、心臓に銃創があったとの見解はなかった。これにより、山上徹也容疑者の単独犯ではなく、ほかにも共犯者がいたのではないかとの陰謀論を招いていた。(中略)「挫滅によって、心臓に穴が空いたが死因じゃない。安倍さんが振り向かれたことで、2発の内1発が左の鎖骨の下の動脈に真っすぐ入って、右の鎖骨の下の動脈と2つを傷つけて、大量出血した。失血死であると司法解剖で出ている」と奈良県警による司法解剖で出した失血死の結果を受け入れるとした。その上で青山氏は「1発の銃弾が起こした失血死である。ただ、山上容疑者の身長とか台の上に乗っていた安倍さんが振り向かれた動作、弾道が一致しているかも含めて、解明しないといけない問題がたくさんある」として、山上容疑者の公判が始まる前に警察庁は改めて、すべてを公表すべきとした。」

 JF Kennedy元大統領の剖検書も公表されていますし、Journal of Traumaという雑誌には外傷起点も含めた論文が記載されています。本来探求されるべき最優先課題の一つが、多くのマスコミ報道によって犯人の背景や統一教会問題などに埋もれさせられてしまい、核心がぼやけてしまっています。元元首の死因の探求ということを家族の意思に頼らず、国家として明らかにすることは自由主義社会の責任と義務であると思われます。青山議員の活動は国会議員として当然の職責であり、今後のさらなる探求を望む次第である。

自衛隊は敵地攻撃力を持つ能力があるのか?

 2023年1月19日付の自衛隊に対する興味ある記事を紹介する。いずれも、早急に解決されねばならない問題と思われる。

 一つ目は、伊藤博敏氏の現代ビジネスの『いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」自衛隊の現実について考える』をである。まとめの部分「一挙に増えた「予算」と「装備」は猛々しく頼もしいが、反撃・継戦能力を持つということは、「戦わない自衛隊」から「戦う軍隊」に変わったことを意味する。日米の同盟強化、豪・英・仏・伊・独などの準同盟国との関係を進展させている岸田政権に必要なのは、国会で論議を尽くして自衛隊から「戦えない」要因を取り除き、法的・システム的な環境を整えることだろう。」は実に的を射えている。

 二つ目は、香田洋二氏の2023年1月19日付PRESIDENT online『なぜ海自の地方トップは「防衛費増額は無条件に喜べない」と話したか…日本の防衛力を蝕む「1%文化」とは予算を削るためなら、弾薬も削ってしまう。』である。まとめの部分「繰り返しになるが、防衛予算には対GDP比1%枠があり、陸海空自衛隊は対GDP比1%をはみ出さないように予算要求項目を調整する「枠入れ」を行う。一方、防衛計画の大綱の別表には基盤的防衛力を維持するために必要な正面装備の数が書いてある。これを達成するためには、どうしても弾薬が削られてしまう。このような組織文化が見直されなければ、対GDP比2%にしても自衛隊は戦えない軍隊のままである。」は、現状の自衛隊の根本的な課題が指摘されている。

 私が知る限りでは、自衛隊の医療についても、「戦う自衛隊」の銃後を守る体制や能力には程遠く、あまりにも貧弱である。敵地攻撃力を持つということは、その場所も攻撃されることであり、防御能力も今以上に必要となり、その要となる重要な要素として医療があることを忘れている。

ロシアのウクライナ侵攻において、戦傷医学の観点から何を学ぶか?

 今回のロシアのウクライナ侵攻から、軍事的な側面からは戦術・戦略も含め、多くのことを学んでいると思われ、良い悪いはともかく、これらは今後の戦闘の在り方をはじめ、多くの知見を残しているのは事実である。戦術・戦略が異なれば、戦傷の種類、重症度なども異なってきて、治療方法もそれに従って進歩していくことが、望まれる。

 戦傷医療に関しては、施設前医療処置として、TCCC(tactical combat casualty care)ガイドラインが推奨されていることは周知である。治療の5要素の頭文字をとったMARCH(massive hemorrhage control:大量出血の止血、airway management:気道確保、respiratory management:呼吸管理、circulation:循環、hypothermia prevention:低体温予防)が有名である。

 このMARCHに関して、評価した論文がある。『一般人と軍の状況下でTCCCを評価する:全体的なレビュー、知識ギャップ分析と将来の研究の推奨(Straus R, Menchetti I, Perrier L et al : evaluating the tactical combat casualty care principles in civilian and military settings : systemic review, knowledge gap analysis and recommendations for future research. Trauma Surg Acute care Open 2012 ; 6 :1-10)』この論文は、13,857の論文と抄録から重複を除いた11,262の論文の中からフルテキスト528を選択し調査し、MARCHの有効性を評価した(62,352症例、年齢:33.6±7.8、性差:85.9%男性、ISS:28.4±17.1)

 この中で、特に著者らが強調したことは、「TCCCガイドラインは全ての病院前・戦場に適用するために発展してきたが、MARCH処置は寒冷環境で実践するには欠点がある。どんなMARCHでも極端な寒冷環境においても有効であることを保証することが重要である。低体温予防は強力であるが、寒冷環境で調査された研究はほとんど見当たらず、低体温予防を調査した2つの研究は寒冷環境では行われていない。」ということである。その上で、重要な疑問を挙げている。①低体温の生理学的変化は大量出血にどのような強い影響を与えるか?、②呼吸介助に影響を与える氷点下以下の温度では結露が凍りますか?、 ③クリスタロイドや血液製剤は、輸液レートや温度が何度で凍りますか?、の3点である。

 今回のロシアのウクライナ侵攻は、まさに低体温との勝負であり、戦傷医学の側面からは、この論文の疑問に答えられる可能性を持っている。我国も敵地攻撃力云々の銀二的な側面だけではなく、戦う兵士の安全安心のためにも戦傷医療の観点からデータ集積・解析・検討が望まれる。

指揮命令系統が乱れ、かつ指揮官が決断できない組織は生き残れない

 組織運営には指揮命令系統が不可欠であり、指揮命令系統は、5C+IFの要素が必須である。さらに組織の長である指揮官は決断することが責務である。岸田内閣は指揮命令系統や指揮官が機能しているのか?はなはだ疑問である。

 5CとはC:Command、C:Control、C:Communications、C:Cordination、C:Cooperation、IFとはI:Intelligence、F:Flexibilityを指す。

 「聞く力」とは迎合したり、阿ることではない。組織運営においては、敢えて聞かずに、「聞き流す」もしくは「聞捨てる」ことも必要である。「聞く力」は指揮命令系統の要素の中では恐らく、Flexibilityの範疇に入ると思われる。Flexibility、融通性とは相手の話を聞き、組織として5Cを図ることである。しかしながら、最近の岸田総理の在り方を見るにつけ、総理の意味する「聞く力」はFlexibilityではなく、「pander to the public(世に媚びる)or cater to the public(世に阿る)」のように感じられるのは私だけであろうか。

 指揮官に求められるものは「判断」ではなく、「決断」である。下の表に示すように、「判断」は客観的であり、誰が行っても同じようになる。一方、「決断」は主観的であり、人や立場が異なれば違ってくるし、決断には責任が伴う。さらに、決断は主観的である以上、決断者に「発信力」がないと、部下にはその真意が伝わらない。「何もしない」という決断が最も悪い決断であるという観点から安倍元総理の国葬、統一教会問題、大臣の罷免、など一連の経過を見るにつけ、総理は「決断」が苦手なようである。

判断(Judgement)決断(Decision)
決定客観的主観的
再現性
規定・基準
職責業務責務
担当担当者決定者
業務実務意思決定
処罰処罰責任

 ロシアのウクライナ侵攻、習近平の独裁政治、など世情を鑑みれば、中国の台湾進攻は著しく可能性の高い緊喫の課題である。このような状況下、日本はどうあるべきか?、日本国のリーダーとして、総理には政治理念を力強く発信して欲しいと思う。それが出来ないなら、政治の舞台から去るという潔さも求められる。