2018年12月10日第一線救護衛生員の最終試験の立ち合いについて

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①右胸部と右大腿下部の貫通銃創、意識障害、出血性ショック、②顎顔面外傷、右下肢離断、骨盤骨折、意識障害、気道緊急、出血性ショック、の想定を見学させて頂いた。処置をさせたい、あるいは、処置のための流れが優先して、正直のところ実地臨床からかけ離れた訓練という印象を受けた。
①はsucking chest woundにチェストシールを貼った後の緊張性気胸の処置に的を絞り、②は顔面外傷による気道確保に外科的気道確保を選択させることが主になっている想定と思われる。

①に関しては気道確保のため訓練生は傷病者を必ず座位にしていた。確かに意識のある顎顔面外傷はしばしば自身で座っていたり前屈みになっていたりすることから下顎固定されない顎顔面外傷は座位にしてみるという方法は論理的である。しかしながら、顎顔面外傷もなく、恐らく出血性ショックによる意識障害者を座位にしてその上で経鼻エアウェイを挿入するという処置は正しいのであろうか。重篤な出血性ショックなら座位にした途端心停止に陥る可能性がある。出血性ショックの患者を座位にすることはショック状態を悪化させるため実地臨床上あり得ないことである。さらに、ある訓練生はショック状態にもかかわらず座位のまま緊張性気胸も脱気し、駆血帯によるうっ血を観察し(もちろん仰臥位でもうっ血しないショック状態なら座位ではうっ血するはずがない)、骨髄穿刺で輸液路を作成し輸液して訓練は終了した。処置の一つ一つは完璧なのだろうが、ショック患者を処置開始から後送まで座位を保持したままであり、ショックの病態を理解しているとは言い難かった。

②に関しては逆に顎顔面外傷の気道確保の手技が優先し骨盤骨折が軽視されていた。座位にするならまず骨盤骨折の有無を確認することが重要である。同じように、最初の右下肢離断にタニケットをかける際にも出血量を減らす処置として鼠径部にためらいもなく訓練生が自分の膝を患者の鼠径部に押し当ていた。鼠径部に膝を押し当てただけで骨盤骨折が分かるはずであるが、その後の全身観察で骨盤骨折を認めpelvic bandageを行う流れというが訓練として正解であるため、実地臨床上はあり得ない流れになっている。

訓練生は教えられた通り実践していると思われ、やはり想定を策定している教職、指導している教職の臨床経験や知識が疑われる事態である。第一線救護衛生科隊員の試験は、質の維持は当然のことながら自衛隊の自己満足にならないよう防衛省コンバットメディカルコントロール(CMC)委員会では外部委員の立ち合いを決めたはずであるが皆勤した外部委員は私だけであり、また、私がCMCを辞した後は今回も含めて外部委員の立ち合いがない。外部の目にさらされない自己満足的な医療は危険である。

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